この記事では、不完全競争市場について解説します。ミクロ経済学では完全競争市場という状態が理想的な状態とされてきました。
しかし、実際は市場メカニズムはうまく働かない不完全競争市場であることがほとんどです。例えば独占企業が市場を支配ている場合などがそうでしょう。Googleなどは独占企業の典型的な例と言えます。
不完全競争市場には4つに分解することができます。その4つが
- 独占
- 複占
- 寡占
- 独占的競争
です。これらをそれぞれ詳しく解説していきます。
※この記事は、ミクロ経済学についての基礎的な知識が必要な内容になります。合わせて以下の記事も読んでみてください。
不完全市場とは?
完全競争市場の成立条件が成り立たないケースが不完全市場です。
不完全競争市場とは?
完全競争市場では、市場メカニズムが働くことで効率的な資源配分が自動的になされます。経済学ではこの状態を最も理想的な状態とみなします
しかし、現実には市場メカニズムがうまく働かないことがあります。この状態を不完全競争市場といいます。不完全競争市場には4つに分解することができます。
具体的には企業が価格に対して独占力を持つことで市場メカニズムがうまく働かなくなる状態を指します。
不完全競争が起こる原因
不完全競争が生まれる原因には以下の要因があると言われています。
- 資源の独占
- 技術的優位性
- 政府の規制
- 規模の経済による自然独占
- サンクコストの存在
それぞれ解説していきます。
資源の独占
生産に必要な資源の占有権を有していることで生まれる独占です。
例えば、石油などがそれに当たります。中東の石油産油国は、市場価格を任意に決定しています。だからこそ、石油危機のように産出国の価格決定によって世界が翻弄されるような事態が起こってしまいます。
石油危機に関する記事は以下にもあります。併せてお読みください。
技術的優位性
模倣することができない技術を有していることを技術の優位性といいます。
たとえば、特許権を取得した技術で生み出された製品は、生産者しか有することができません。そのため製品市場では、その生産者しか市場価格を決定することができません。結果として独占が生まれるのです。
イノベーションが起こると技術の優位性が起こり独占に至りやすいと言われています。イノベーションに関しては以下の記事をあわせてお読みください。
政府の規制
政府の規制が存在する産業で生まれる独占です。
認可の必要な公共交通事業や、電気・ガスのような公共インフラ事業は供給者が少数しか存在しません。結果、彼らが価格決定をなし独占を生み出します。
これらの産業は次に説明する規模の経済性という性質を持ったものが多くみられます。
規模の経済による自然独占
規模の経済が強く働く産業で生まれる独占です。
たとえば、製鉄産業や石油産業は、初期に多くの投資が必要になります。しかし、その初期投資を済ました上で、一生産当たりのコストを低い状態で生産をすることが出します。
一定の規模を有する供給者のみが生存できるという特性を有しているため、自然発生的に独占が生まれます。これを費用低減産業とも言います。
費用低減産業に関する記事もあわせてお読みください。
サンクコストの存在
サンクコストが多く存在する状況で生まれる独占です。サンクコストとは既に支出したコストで回収が不可能な埋没費用のことを指します。
ある製品を生産する時に、高額で何かに特化した機械に投資した企業は、その固定費用を回収するために、必死になります。
そこで、相場より低い価格で生産をしようとします。すると、その企業は価格力を持つようになり、他社の企業が追いつくことがでず、独占が生じてしまうのです。
不完全競争の分類
不完全競争市場には競争の度合いはさらに3つに分類することができます。それが
- 供給者の数
- 製品差別化の度合い
- 企業の価格支配力の度合い
の3つに細分化することができます。これらを先に説明した分類に分けると以下の表のようになります
供給者の数 | 製品差別化の度合い | 企業の価格支配力の度合い | |
---|---|---|---|
独占 | 1社 | なし | あり |
寡占 | 2社 | ほとんどなし | かなりあり |
複占 | 数社 | 少しあり | かなりあり |
独占的競争 | 無数 | あり | ほとんどなし |
それぞれの解説に関しては以下で詳細に解説します。
独占とは?
不完全競争市場の代表に独占があります。売り手(生産者)が1人のときを独占と言います。
独占企業は、自分の利潤を最大化するために行動し、その一社の動きが市場全体の価格を決定します。
独占とは?
完全競争市場では、企業の行動は市場価格に影響を与えることがありません。企業も無数に存在するため、価格決定プロセスは企業ではなく市場が決定します。
一方で、独占市場では、独占企業だけが生産者としての地位をもっています。そのため、企業側の生産行為が価格を決定することになります。
なぜなら、消費者は独占企業の商品しか選択することが起きず、企業側が優位を保つことができるからです。
利潤最大化条件
完全競争市場では、企業の利潤最大化条件は価格(P)=限界費用(MC)でした。
一方で、独占企業の利潤最大化条件は
利潤最大化条件
・限界収入(MR)=限界費用(MC)
となります。(理由は後述)
ちなみに、限界収入(TR)とは生産量を1単位増加させたときの総収入の増加分のことを指します。一方で限界費用(MC)は生産量を一旦い増加させたときにかかる費用の増加分のことを指します。
(この部分の理解がまだの人は消費者理論と生産者理論に関する以下の記事を読んでみてください。)
利潤最大化条件の導出
以下で不完全競争市場における利潤最大化条件がどのようにして導出されるのか解説します。
まず、利潤は以下の式で表すことができます。
利潤(π)=総収入(TR)-総費用(TC)
その際に、価格の決定の仕方に注意してください完全競争市場では価格は所与であるのに対して、不完全競争市場においては企業側がの生産が価格を決定することになります。
では、実際に導出をしていきます。
π=TR-TCを、生産量(Q)で微分してイコール0で表します(なぜなら、不完全競争市場では生産量(Y)によって価格が決定するため)。すると、
Δπ/ΔQ=ΔTR/ΔQ – ΔTC/ΔQ=0
となります。この時
- ΔTR/ΔQ→限界収入(MR)
- ΔTC/ΔQ→限界費用(MC)
であることがわかるので、それぞれ表現を変えると
MR-MC=0
が導かれます。その後、MCを右辺に移すと
MR=MC
という不完全競争市場の利潤最大化条件が導き出されるのです。
独占企業の利潤最大化をグラフで表す
つづいて、独占企業の利潤最大化条件をグラフであら合わしてみます。
独占(不完全競争市場)の利潤最大化条件は
限界収入(MR)=限界費用(MC)
でした。これをグラフで表すために
- 独占価格
- 独占利潤利潤
の順番で表していきます。
独占価格
独占価格を表すために
- 需要曲線(D)
- 限界収入曲線(TR)
- 限界費用曲線(MC)
をまず描きます。以下の仮定を置いた場合を考えます。
- 需要曲線:P = -aQ + l
- 限界収入(MR):-2aQ+ l
TR=P・Q
=(-aQ + l)・Q:需要曲線の数式をPに代入
=-aQ2 + l・Q
→TRをQで微分するとMRになる
MR=-2aQ+ l
すると独占価格は以下のように表せます
独占利潤
ここからさらに独占利潤を表していきましょう。独占利潤とはその名の通り、独占企業が財を販売する結果として得られる利潤のことです。
ます利潤(π)は
総収入(TR)-総費用(TC)
から算出することができます。その際に平均費用曲線(AC)を独占価格のグラフに追加します。これをグラフで表すと以下のように表現することができます。
独占利潤(π)はTRからTCを差し引いた部分になります。またP”はMCとACの交点の延長上にある費用になります。
- 総費用(TC)=P”×Q’
- 総収入(TR)=P’×Q’
厚生損失(余剰分析)
では、独占における余剰分析をしていきましょう。余剰分析に関しては部分均衡理論の記事で詳しく解説しているので見てみてください。
完全競争市場の場合、総余剰(消費者余剰と生産者余剰の合計)が最大になります。
しかし、独占状態ではそうはいきません。以下のグラフを見てみてください。
独占の場合は生産者余剰が台形で、消費者余剰は完全競争のときより小さくなっています。つまり生産者の方が儲かってしまっているのです。
しかし、全体で見ると総余剰が小さくなっています。この完全競争市場であれば得られたはずの余剰を厚生損失と言います。そう余剰を比較してみるとE,E‘,Fの部分が独占の時はかけているのがわかると思います。(以下のグラフ参照)
不完全競争市場の代表に独占があります。売り手(生産者)が1人のときを独占と言います。
独占企業は、自分の利潤を最大化するために行動し、その一社の動きが市場全体の価格を決定します。
複占とは?
ここでは複占とは何か解説していきます。
複占とは?
複占とは、市場に企業が2社のみあるケースです。独占の場合は1社しかありませんでした。そのため、価格決定はその1社に委ねられていました。
複占の場合は、他の会社の動きに反応することになります。複占企業も価格支配力をもっています。そのため複占状態の利潤最大化条件は独占企業の時と同様に
限界収入=(MR)限界費用(MC)
となります。
また、複占には三つのパターンがあります。それが、
- クールノー均衡:2社がお互いに影響力をもっている状態
- シュタッケルベルク均衡:2社の一方が片方に追従する、実力に差がある状態
- ベルトラン均衡:2社の実力は、そこまで影響せずにお互いの生産する財の価格に反応
以下ではそれぞれ解説をしていきます。
クールノー均衡
1社がもう1社の生産量を所与として生産量を決定することをクールノー均衡といいます。この時に2社の力が拮抗している状態です。
クールノー均衡では主に生産量を見ていきます。
では、クールノー均衡をグラフと数式で表すとどうなるか解説します。
まず、企業XとYのみが市場に存在すし、以下の仮定が成立する社会を想定します。
- X社の生産量:Qx
- Y社の生産量:QY
- 市場全体の生産量:Q=Qx+QY
- 価格P:P=a−b𝑥で与えられるとする.
- 限界費用(MC)=C
その上で、X社とY社からみた利潤最大化となる生産量を求めていきます。
企業Xの利潤をπxとおきます。その際の利潤は以下のような式になります。
πx=PQx−CQx
ここからX社の利潤πxを最大にするQxを考えていきます。まず、P=a−bQとQ=Qx+QYを代入すると
πx=(a−b(Qx+QY))・Qx−CQx
=−bQx2−bQxQY+(a−C)Qx・・・(1)
(1)が導き出されます。(1)を最大にするQxを求めるため,Qxで微分して0になるところを求めます。すると、
−2bQx−bQY+(a−C)=0
Qx=−1/2QY+(a−C)2b ・・・(2)
となり、Y社の生産量が与えられている時のX社の利潤が最大になるX社の生産量が求められます。
続いて企業Yの利益をπyとおきます。その際の利潤は以下のような式で求められます。
πy=PQY−CQY.
ここから企業Yの利潤πyを最大にするQYを求めると,
QY=−1/2Qx+(a−C)/2b・・・(3)
となります。X社の生産量が与えられている時のY社の利潤が最大になるY社の生産量が求められます。
この式(2)と(3)を最適反応関数と言います。これをグラフに表すと以下のようになります。X社とY社の反応曲線の交点が複線均衡と呼ばれる状況になります。
ここからX社とY社が最適反応となる生産量の組み合わせは、式(1)と(2)を連立方程式で解いたものになります。すると
Qx=QY=(a-C)/3
となります。
ベルトラン均衡
クールノー均衡では生産量を中心に考えてきました。ベルトラン均衡は、1社がもう1社の価格に反応して価格を決定することを指します。
シュタッケルベルク均衡
シュタッケルベルク均衡は、先導者である企業が生産量決定した後に、追随者が生産量を決定をおこない価格が決定されることを指します。
シュタッケルベルグ均衡の前提として、市場に
- 先導者
- 追随者
という規模の違う企業が2社存在があります。
その際に追随者は、将来に対する追随者の状態を知る手段がなく、先導者は知見できるものとしている。つまり、追随者は情報の点でも不利なのです。
寡占とは?
寡占とは?
寡占は、企業が数社市場に存在するときにおこります。まず、寡占とは数社の企業が価格支配力をもっている状態を指します。
寡占市場では価格の硬直性が問題になります。価格の硬直性とは、価格調整のプロセスが柔軟におこなわれない状態のことを指します。
経済学では、市場価格がスムーズになされる完全競争市場を効率的で良いものとしていたことは、前の記事で説明しました(パレート効率性)。しかし、寡占市場では、価格の硬直性によって効率性が妨げられてしまうことがあるのです。
こうした寡占市場における価格の硬直性を説明するのが屈折需要曲線です。
屈折需要曲線
屈折需要曲線は、価格の硬直性を説明したものです。とくに費用面の変化に対して価格が硬直的である状態を説明します。以下の曲線が屈折需要曲線です。需要曲線が屈折しているから屈折需要曲線です。
なぜ屈折しているか?それは、複数の企業が存在する以上、自分と同じ行動を他の企業がするとは限らないからです。
価格がPaで決まっている状態から、価格を下げた場合とあげた場合の二つを考えてみましょう。
・価格を下げた場合(Paより値段を下げた場合)
ある企業が価格を下げた場合、他の企業も追随して価格を下げてきます。そのため、価格を下げても販売量はあまり変化しません。よって、需要の価格弾力性は小さいので需要曲線の傾きは急になるのです。
・価格を上げた場合(Paより価格を上げた場合)
この場合、最初に価格を上げた企業の販売量は減少することになります。なぜなら、他の企業は、価格を上げない可能性もあるかあらです。寡占状態での値上げをした場合、需要の価格弾力性は大きいことになり、需要曲線の傾きは緩やかになります。
これらの理由から、寡占市場では需要曲線は屈折したかたちになるのです。
非連続な限界収入曲線
寡占企業は価格支配力をもつため、利潤最大化条件は限界収入(MR)=限界費用(MC)になります。先に述べた、価格屈折需要曲線について限界収入曲線を入れて表現すると以下のようになります。
先ほどの、はじめの価格Paのところで限界収入曲線が不連続になっていることがわかると思います
限界費用曲線(=供給曲線)がこの不連続なエリア内でシフトした場合、消費量と価格が変わらない地点が出てきます。これが価格の硬直性になるのです。
独占的競争とは?
独占的競争とは?
独占的競争は、不完全市場と完全競争市場の中間に位置づけることができます。
- 企業の数は無数
- 市場に参入の自由
この点では完全競争市場と同じです。
しかし、財の同質性は独占的競争市場にはありません。各企業の商品は、差別化されており、自社の商品に対して価格支配力を一定程度保持しています。
例えば、同じ家具屋さんでも大塚家具とニトリはブランド力もあり、それなりに価格支配力をもっています。
短期均衡と長期均衡
完全競争を見ていく上で重要なのが短期と長期で変わってくるという点です。
・短期均衡
ここでいう短期とは新規参入がまだない状態です。差別化された商品を生産している企業は、短期的には利潤を独占することができます。なぜなら、最初のうちは競争相手もいないからです。
短期の状態では、独占企業と同じく価格支配力をもつことができます。そのため、利潤最大化条件は限界収入(MR)=限界費用(MC)となります。
・長期均衡
長期的に見た場合、状況は変わってきます。なぜなら、新規参入が増えてくることで、最初の企業が持つ消費者に対する魅力が減少してくるからです。
こうした状況は、市場にいる企業の利潤が0になるまで続きます。企業の持つ魅力はどんどん減少していきます。その結果、完全競争の利潤最大条件である価格(P)=限界費用(MC)になるまで新規参入が続いていくのです。
これらのことから、独占的競争とは不完全競争と完全競争の過渡期の状態とも言えるでしょう。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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