この記事ではミクロ経済学における生産者理論について解説した記事になります。生産者理論は、市場における供給をする側の行動に関する理論になります。
また、生産者理論と対になる理論として消費者理論があります。こちらについてまだ、知らないという方は読んでみてください。
また、そもそもマクロ経済学の全体像について理解できていない方は以下の記事を読んでみてください。
ミクロ経済学の全体像
ではまず、その前にミクロ経済学の前提を復習しておきましょう。もしすでに理解をされている場合は、消費者理論に進んでいただいて大丈夫です。
消費者・生産者
ミクロ経済学では、消費者(家計)と生産者(企業)が経済主体として存在します。そして臨時で政府が介入してきます。
そして、消費者は財・サービスを購入することで満足感(効用)を最大化することを目指します。こうした消費者の行動は需要を生み出します。
一方で、生産者は財・サービスを生産することで利潤の最大化を目指します。こうした生産者の行動は供給を生み出します。
また、彼らの行動をグラフで表した場合、消費者の行動は需要曲線、生産者の行動は供給曲線で表されます。縦軸には価格(P)、横軸には数量(Q)が与えられています。
市場:価格調整メカニズム
生産者と消費者は市場で出会います。両者は、価格を通して財・サービスの取引をすることで、目的を満たすように行動します。この関係性をグラフで表したものが以下のグラフです。先ほどの需要曲線と供給曲線を組み合わせたものになります。
その際に、需要と供給によって財の価格が決定されます。そして、この価格が決定されるプロセスを価格調整メカニズムと言います。
たとえば、価格水準がP1の場合を想定してみましょう。このような状態を超過需要の状態です。
- 消費者は安い価格で財を消費できるので需要が増加します。これにより価格上昇します(①)。
- 生産者にとって当初は価格が低い状態です。しかし、①の需要の増加に対応して、生産者は供給を増やそうとします(②)。
- これにより需要曲線と供給曲線の均衡点である均衡価格(P*)と均衡需要量(Q*)にまで落ち着くように変化します。
これが価格調整のプロセスになります。
また、この価格調整メカニズムは市場の力によって決定されるとします。「神の見えざる手」です。このような市場の状態のことを完全競争市場と言います。
生産者理論:供給曲線に関して
続いて、生産者理論について説明します。理論の中心は、生産者です。そして、生産者がどのように経済の中で振る舞うかを分析します。
商品の価格が上がると、生産者が売りたいとおもう量は増加します。売りたいと思う量とは供給量のことです。この関係性をあらわしたものが供給曲線になります。かたちとしては右上がりです。(下記のイラスト参照)
では、供給曲線はなぜ右上がりなのか?以下ではその理由について説明していきます。
生産関数とは?
生産者の行動目的は、利潤最大化です。そのためには、資本や労働のコストを最小限にした上でインプットする必要があります。生産関数によって、そのための行動を可視化することができます。
生産要素
財・サービスを生産するためには、資本・労働・土地の3つの生産要素が必要となります。資本とは例えば工場や機械などがあげられます。労働は、その名の通り労働者の労働力のことです。また、土地は労働や資本が
現代の経済学では土地はあまり重視されません。そこで今回土地に関する解説は割愛します。ですので、ここでは資本と労働を組み合わせて財・サービスを生産すると考えます。
生産関数
生産関数とは、生産要素(労働・資本)の投入量と、投入の結果えられる生産量の関係をあらわしたものがです。
そして、生産関数は、
- 資本(K)と生産量(Y)の生産関数
- 労働(L)と生産量(Y)の生産関数
の2種類が求められます。また、前者の場合は、労働は一定と仮定します。後者の場合は、資本は一定と仮定します。
生産関数の数式は
Y(生産量)=f(L,K)
となります。この生産関数をグラフで表したのが生産曲線です。横軸は資本(K)もしくは労働(L)の投入量、縦軸は生産量をおきます。かたちが凸型になっているのは、限界生産力が徐々に逓減すると仮定されているからです。
続いて、限界生産力について説明していきます。
限界生産力
限界生産力とは、生産要素(労働か資本のどちらか)を1単位分増加させたときの生産量の増加分のことです。これを簡単に言いかえると生産性になります。
限界生産性は生産関数と同様に、労働と資本の場合の二つに分けることができます。
- 資本を1単位増加させた場合の生産量の増加分を資本の限界生産力
- 労働を1単位増加させた場所の生産量の増加分を労働の限界生産力
といいます。
また、限界生産力はグラフの接線の角度に該当します。これは、生産量を労働もしくは資本の投入量で微分して求めることができます
限界生産力逓減の法則
限界生産力は逓減する傾向を持っています。限界生産力逓減の法則とは、生産要素の投入量が増加するにつれ、限界生産力が低下していく傾向のことをさします。
費用最小化の条件について:等量曲線・等費用線
生産者は利潤最大化のためにコストもしくは費用を最小化する必要性があります。ここでは、生産者が費用を最小化するための条件について解説していきます。
等量曲線
2つの生産要素の組合せについて描いた生産曲線を等量曲線(等産出量曲線)といいます。この曲線は、同じ生産量を生産するのに必要な生産要素(労働・資本)の組み合わせを示したものです。
消費者理論で登場した無差別曲線の二つの財・サービスが資本や労働の生産要素に変わったバージョンと考えて良いでしょう。
等量曲線は、原点に対して凸型になっています。こうした原点に対し凸型の等量曲線は、コブ=ダグラス型生産関数といいます。
原点に対してL字型の等量曲線も存在します。これをレオンチェフ型生産関数といいます。
ssと労働の組み合わせの仕方が限定的な生産システムの場合にこの生産関数になります。コブ=ダグラス型生産関数は、資本(K)と労働(L)の組み合わせがレオンチェフ型生産関数に比して柔軟になります。
技術的限界代替率
同じ生産量を保つために、片方の生産要素を1単位増加させたとき、もう一方の生産要素を何単位減少させるべきかを示したものを技術的限界代替率(MRS)といいます。
この技術的限界代替率は、資本の限界生産力と労働の限界生産力の比と等しくなります。数式であらわすと、
労働の限界生産力/資本の限界生産力=MPL/MPK
となります。これは、技術的限界代替率逓減の法則があてはまるケースです。
等費用線
等費用線とは、一定の生産費用の中で可能な生産要素の組み合わせを示したものです。
等費用線は、消費者理論でいうところでの予算制約線に相当するものです。等費用線は、労働力に賃金(w)をかけたものに資本に資本価格をかけたものを足し合わせたものになります。
費用最小化点
これまで説明してきた、等費用線と等量曲線を組み合わせることで導出することができます。生産者は等量曲線と等費用線の接点で、最小費用で済む生産要素の最適な投入量を決定します。
消費者理論でいるところの最適消費点と一致します。
費用最小化の条件は次の形になります。
費用最小化点技術的限界代替率(MRS:MPL/MPK)= 生産要素の価格比(w/r)
技術的限界代替率は限界生産力の比率から求めることができます。
総費用について
生産者は、利潤を最大化することを目的に生産量を決定します。総費用などのコストに関しては別の記事で解説しているのであわせてお読み下しさい。
総費用・総費用関数
まず、といいます。そして、生産量と総費用の関係性をあらわしたものが総費用関数になります。グラフであらわしたものが総費用曲線です(以下のグラフ参照)。
総費用曲線は逆S字型の総費用曲線が一般的です。
可変費用(VC)・固定費用(FC)について
総費用は二つの要素から構成されています。それは、可変費用(VC:variable cost)と固定費用(FC:fixed cost)です。数式で表すと以下のようになります。
総費用(TC)=可変費用(VC)+固定費用(FC)
可変費用(V)は、生産量に比例して変化する費用のことをさします。例えば、商品の原価などが該当するでしょう。生産した分だけ原価は大きくなります
固定費用(FC)とは、生産量に関係なく必要となる一定の費用のことです。例えば、事務所や管理にかかる費用などは生産量に関係なく発生する費用です。
限界費用と利潤最大化について
ここでは限界費用と利潤最大化について解説していきます。別の記事ではこの領域を詳細に解説しているのであわせてお読みください。
限界費用(MC)
では限界費用とはなんでしょうか?
財・サービスの生産を1単位増加させた時に、総費用が増加した分を限界費用(MC:Marginal Cost)といいます。
限界費用は、総費用関数の接点の傾きになります。算出方法としては、総費用関数を生産量で微分します。数式で表すと以下のようになります。
限界費用(MC)=ΔTC/ΔY
平均費用と平均可変費用について
つづいて平均費用と平均可変費用について解説していきます。これらは生産者の生産活動の中で利益が出るか出ないかの水準を算出する方法を学びます。
平均可変費用と平均費用に関しては別の記事で詳細に解説しているのであわせてお読みください。
平均費用
総費用を生産量で割ったものを平均費用(AC:Average Cost)といいます。より簡単にいうと1つを生産するのにかかったコストのことを平均費用(AC)と言います。
平均費用(AC)の算出方法を数式で表すと以下のようになります。
平均費用(AC)=総費用(TC)/生産量(Y)
=(固定費用(FC)+可変費用(VC))/生産量(Y)
平均費用(AC)をグラフで示すと、グラフ上の点に対して原点から引いた直線の傾きになります。
平均可変費用(AVC)
可変費用(VC)を生産量で割ったものを平均可変費用(AVC:Average Variable Cost)といいます。
数式で表すと以下のようになります。
平均可変費用(AVC)=可変費用(VC)/生産量(Y)
平均可変費用(AVC)をグラフで示すと、グラフ上の点に対して縦軸切片から引いた直線の傾きになります。
損益分岐点と操業停止点について
続いて、損益分岐点と操業停止点について説明していきます。これらは、
を組み合わせたグラフでみることができます(以下のグラフ左)。
また、この際にこのグラフからある一定の価格水準において得られる総収入(TR)から、回収できる利潤(π)、固定費用(FC)、可変費用(VC)の状況をみることができます。
上記の右のグラフにおける価格水準が、P1の状況では利潤(π)が発生していることがわかると思います。これから説明する損益分岐点では利潤(π)が回収できない、もしくは固定費用すら回収できない企業の状態を見ていきます。
損益分岐点や操業停止点に関しては別の記事で解説しているのであわせてお読みください。
損益分岐点
損益分岐点とは、以下のグラフの点のことを指します。
損益分岐点では、利潤が0になります。この時、
限界費用(MC)=平均費用(AC)
となっています。
損益分岐点では、企業は、全体で見れば赤字かもしれないです。しかし、日々の営業は、商品の仕入れや従業員の給料などの可変費用が払えれば問題なく営業することができます。
操業停止点
操業停止点は以下のグラフのようになります。
操業停止点では、可変費用(VC)しか回収できなくなり、固定費用(FC)が回収できなくなります。この場合、
限界費用(MC)=平均可変費用(AVC)
となります。
操業停止点を下回れば、固定費用を上回る赤字生み出すことになり生産を停止したほうが損失は少なくてすみます。(以下のグラフ参照)
供給曲線の導出
価格と生産量の関係は供給曲線で表されます。供給曲線は、限界費用曲線の操業停止点より上の部分が供給曲線と一致することになります。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!
それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。