この記事では、イノーベーション理論の提唱者である、ヨーゼフシュンペーターについて解説していきます。
シュンペーターの生涯
イノベーションという言葉を提唱した人物をヨーゼフ・シュムペーターといいます。彼は、経済学者であり日本での人気が高い人物です。
シュムペーターはオーストリア=ハンガリー帝国(現在のチェコ)の経済学者です。1883年にモラヴィアのトリーシュで生まれます。父親が早世で、彼の母はのちに裕福な男と再婚しています。
母の再婚により金銭的余裕が家庭にあったため名門校で教育を受けることができました。卒業後はウィーン大学で法律と経済学を学びます。
1906年には博士号を取得します。29歳になると『経済発展の理論』を出版してグラーツ大学に教職を得ることになります。同書籍は大きな話題を持って受け入れられ、経済学者としての地位を確固たるものにします。
しかし、彼の人生は順風満帆と言えるようなものではありませんでした。
第一次世界大戦が勃発するとオーストリア共和国が成立し、シュンペーターは同国の大蔵大臣に就任します。しかし、仲間の裏切りにより半年でこの職を辞すことになります。
続いて就任した銀行頭取の地位も銀行破綻によって失われることになります。これにより個人的な投機で得た財産を全て失うことになりました。
結局食い物を稼ぐために、1925年にボン大学の教授に就任し、1920年代終わりにはハーバード大学の客員教授として招聘されます。アメリカの市民権を得て、終生アメリカで暮らすことになります
1930年代に入ると、ジョン・メイナード・ケインズが『一般理論』の発表し、ケインズ経済学が時代の主流となっていきます。
この時代状況でシュンペーターの経済学は時代遅れのものとみなされ、若い教え子たちはケインズ経済学の方へ流れていってしまいます。
シュンペーターの思想
続いてシュンペーターの思想を理解する上での前提とも言える
シュンペーターの資本主義
シュンペーターの思想の特徴として、資本主義をダイナミックなものとして捉えた点にあります。
資本主義は計画経済と違って、非直線的な性質を持ち予測不可能であると指摘しました。次のどのような産業が発展し、どのような商品が流行するのか、不況はいつ来るのか、なんてことは誰にも分からないのです。
それは、資本主義は無数の人々の個別の思考と行動を合計したものだからです。
企業家たちは成功を収めるために、新しい事業に取り組み、絶えず新しいものを求めます。多額の投資をしても技術が古くなればそれを進んで捨て去るような意志が、資本主義に活気を与えるのです。
既存経済学との違い
シュンペーターは資本主義の性質を、いかにして現存構造を創造しかつ破壊するかと言う点に見出していました。つまり、創造的破壊です。この絶えず変化する資本主義の中で企業は生き残る必要があるのです。
こうした中で、企業家の常に新しいものを取り入れるような企業家精神が資本主義を推し進める力になると考えていました。
一方でアダム・スミスに始まる古典派経済学やマーシャルに代表される新古典派経済学は、資本主義を完全競争の世界として捉えていました。そのため、企業間の競争を重要視し、資本主義の世界を均質的なものとして捉えていました。
ここに、主流の経済学との違いがありました。シュンペーターは企業家精神のような定性的なものを重要視し、資本主義を突き進める力として捉えていました。
その後の影響
彼の経済理論は現在の経済学に引き継がれているとは言えない状況です。しかし経営学の分野において盛んに引き継がれています。
シュンペーターの経済理論
ここでは、シュンペーターの経済理論を解説していきますを詳細に解説していきます。
主に『経済発展の理論』におけるシュンペーターの主張をもと進めていきます。
企業家によるイノベーションと創造的破壊
まずは、シュンペーターの経済理論を抑える上で重要な創造的破壊とイノベーション(新結合)について抑えておきましょう。
創造的破壊とは、経済発展をしていくうちに、新しいものが生み出され古いものが駆逐されていく一連の新陳代謝のことを指します。これは、資本主義の性質とも言えます。(創造的破壊の概念は、『経済発展の理論』ではなく、のちに出版する『資本主義・社会主義・民主主義』で初めて提唱されます。)
そして、この創造的破壊を引き起こすのがイノベーションです。イノベーションは企業内部から引き起こされ、これが創造的破壊をもたらし、古い産業などを駆逐します。
イノベーションをシュンペーターは、以下のように定義しました。
新しい財貨や新しい品質の財貨の生産
(J・A・シュンペーター『経済発展の理論』上巻 訳塩野谷雄一他1997)
・新しい生産方法の導入
・新しい販路の開拓
・原料や半製品の新しい供給源の獲得
・新しい組織の実現
日本語でイノベーションを技術革新と訳することがあるのですが、シュンペーターのいうイノベーションは技術的なことだけでなく、「組織」や「販路」、「供給源」に関すること含まれている点には注意しましょう。
そして、このイノベーションの担い手となるのが企業家です。この意味における企業者とは、ルーチンをこなすだけの経営管理者ではなく、新しい組み合わせで生産要素を結合し新たなビジネスを創造するような者のことです。
銀行家による信用創造
イノベーションにおいてシュンペーターは信用創造のプロセスを重視しました。信用創造とは銀行が貸し付けによって預金通貨を創造できる仕組みのことです。
資本主義経済は、貨幣を必ず必要とします。しかし、企業者は貨幣を持っていないため銀行家からの信用貸出を受けることで事業を実現できます。
その際に、銀行がお金を貸し出すことができる信用創造の仕組み無くしてイノベーションは実現ができないのです。
企業家という、情熱的に事業を推進する人物だけではイノベーションは引き起こされません。そこには、お金が必要になるのです。そこで銀行家が必要になるのです。彼の可能性を見抜きお金を企業家に貸す。これによりイノベーションは推進されるのです。
静態から動態へ
この企業家が銀行家と組むことで生み出されるイノベーションとされに伴い起こる創造的破壊は経済に大きな変化をもたらします。
その変化とは、静態から創造的破壊をきっかけに動態という状態へ移行するプロセスのことです。
静態の概念は、ワルラス流の一般均衡という概念を受け継いだものになります。
一般均衡とは、それぞれの商品市場において需要と供給が独立して部分的に均衡しているのではなく、各々の市場は相互依存の関係にあり、最終的にはあらゆる市場が均衡状態になると言うことです。
この一般均衡の状態を、シュンペーターは静態としました。そして、静態は、イノベーションが引き起す創造的破壊をきっかけに動態へと移行するのです。
一方で動態とは、経済が創造的破壊によって撹乱されて不均衡が拡大することを指します。既存の企業は潰れてゆき、新しいビジネスを始めた産業が興隆していくのです。
この静態と動態は循環するように繰り返されることになります。
景気循環
企業者が銀行からの借入を受けてイノベーションを実行すると経済は撹乱されます。つまり動態へと突入するのです。この不均衡の拡大こそが、好況と言われる状態のことです。
そして、イノベーションがもたらした新しい状況では、独占利潤を手にした先行企業に対して、後続企業が模倣を繰り返します。この後続企業の追従によって、収益が見込めないことを感じ取った銀行は、信用収縮、つまり借入金の返済を行います。
結果、徐々に経済が均衡化していき不況になるとしました。これが静態です。
資本主義・社会主義:『資本主義・社会主義・民主主義』
シュンペーターは、社会学的な観点からも経済を分析しています。それが『資本主義・社会主義・民主主義』という著作になります。
ここで、創造的破壊の末に資本主義は崩壊し、社会主義化すると考えていたところにあります。その要因として官僚化です。その例を2つほど上げていきます。
1つ目は官僚的な企業によるイノベーションの自動化、2つ目が政府の官僚国家化です。
イノベーションの自動化
経済発展の中で、大半の人々は最低限な欲望を満たすことができるようになります。すると企業家は何もすることが残されていません。すると企業家になったであろう人々は、事業から他の分野に目標を切り替えてしまいます。
イノベーションは共同で研究開発する大企業のチームになり、改革は日常的な業務にされてしまいます。経済的進歩は非人格化され自動化されてゆき、大企業が個人主義的な企業家を吸収してしまうのです。
政府の官僚国家化
資本主義は経済成長を繰り返す中で、かつてと同じ成長率で成長することは難しくなります。
人々は不確実性と危険を減らしたがる傾向があるので、この傾向が国家と結びつくことで資本主義国家は官僚化していきます。
そして、福祉国家や社会保障による保護が拡大し、企業の国有化も進められることになると考えられます。
結果として、資本主義の活力源である企業家の役割は減少します。結果、企業家の仕事は国有化された大企業が代替することになるのです。
おわりに
ということになるのでした。
いかがでしたでしょうか?イノベーションって意外といろんなところで聞きますが、実は遥か昔からあった理論だったのです。そして、それを生み出したシュンペーターの理論は今も僕たちの中で生き続けているのです。
そのシュンペーターを理解するためにオススメな書籍は『資本主義はいかに衰退するのか』が良いです。ハイエクやミーゼスとの思想の関係性についても言及があり、理解が非常に深まります。
シュンペーターの書籍である『経済発展の理論』や『資本主義・社会主義・民主主義』のリンクを貼っておきます。