この記事では市場の失敗について解説していきます。
経済学では市場は効率的に動いていることが理想とされています。しかし、市場メカニズムが働いても経済的な効率性が発揮できていないことがあります。それが市場の失敗です。
また、この記事は、ミクロ経済学に関してまだ理解が深められていない方には読みにくい可能性があります。そこで以下の記事も合わせて読んでみてください。
市場の失敗とは?
経済学では、効率的に財・サービスが行き渡る完全競争市場が理想とされていました。
しかし、市場メカニズムが働いても完全競争市場が達成されず、非効率的な状態があります。これを市場の失敗と言います。
また、市場の失敗と似たものとして、不完全競争市場が挙げられます、市場メカニズムが働いていない状況のことを指します。
具体的には
- 外部性
- 費用逓減産業
- 公共財
- 不確実性
- 情報の非対称性
といったものが挙げられます。それぞれ以下で詳細に解説していきます。
外部性とは何か?
外部性とは?
ある経済主体の行動が他の経済主体の意思決定に影響を及ぼすことを外部性(externality)といいます。また、外部性にも種類があります。それが以下の2つです。
- 外部不経済
- 外部経済
前者が経済主体にとって不利に働くもので、後者が有利に働くものです。このように、外部性には負の側面を持つものとプラスの側面を持つものがあるのです。
外部不経済の例として、公害があります。これは、工場から流れた汚染水によって、川下の住民に被害が及ぶものがあげられます。
一方で、外部経済の例としては養蜂場と果樹園があります。ハチの受粉によって果樹園は作物の繁殖が可能になりますし、養蜂場はミツを得ることができます。
私的限界費用と社会的限界費用
外部性を分析する上で、費用面に関して注目する必要性があります。特に、社会全体と企業の立場から見た費用を分けて考える必要性があります。
そこで、限界費用(MC)は二つに分けることができます。
- 私的限界費用(PMC)
- 社会的限界費用(SMC)
です。前者は外部性を考慮しない限界費用。つまり、企業からみたな費用のことです。
後者は外部性を考慮した限界費用。つまり、社会全体からみた費用になります。
企業がある財を生産する際に費用をかけたとします。しかし、企業がかけた費用以上に社会にコストをかけている可能性があるのです(逆に社会にメリットを与えて、企業が多く費用を払っていることもあります。)
この私的限界費用と社会的限界費用の大小が外部経済か外部不経済を分けることになります。
外部不経済
外部不経済とは、市場を通じて行われる経済活動の外側で発生する不利益が個人や企業に悪い効果を与えることを言います。
その際に、社会的限界費用(SMC)>私的限界費用(PMC)となります。
また、余剰分析についての解説は以下の記事でしていますので、参考までにどうぞ。
外部不経済における企業の視点から見た場合の利潤最大化条件は、
・価格(P)=私的限界費用(PMC)
となります。このときの市場均衡点は、需要曲線と私的限界費用(PMC)曲線の交点になります。
これに対して、社会全体から見たときの資源配分は、需要曲線と社会的限界費用(SMC)曲線の交点になります。
これらに対して、余剰分析をおこなうと、社会全体のコストを負わず、低い限界費用のもとで生産していることがわかります。青い領域が外部不経済に相当します。また、外部不経済の場合、ポテンシャル以上を企業が発揮しているため過剰生産になります。
外部経済
外部経済の場合、私的限界費用(PMC)>社会的限界費用(SMC)となりまます。
外部不経済の場合と同様に、企業は社会のことを考慮に入れず生産を行います。企業の利潤最大化条件は、
価格(P)=私的限界費用(PMC)
になります。この時の状態をグラフで表すと以下のようになります。
企業からみた市場均衡点は需要曲線と私的限界費用(PMC)曲線の交点です。
社会全体からみてのぞましいパレート効率的な資源配分は、需要曲線と社会的限界費用(SMC)曲線の交点で実現します。
このとき、総余剰においては企業は社会全体からみると高いコストで生産をしていることになります。そのため、もっとポテンシャルがあるにも関わらす生産ができていない過少生産の状態になってしまします。
ピグー的政策
このように、外部不経済の場合、過剰生産に外部経済の場合には過少生産になります。これは効率的な資源配分ができていない状況となっています。これを修正するのは政府の役目になります。
外部不経済の場合、過剰生産に対して、必要なコストを「租税」の形で課すことによって、私的限界費用(PMC)を社会的限界費用(SMC)まで上昇させます。環境税がそれにあたります。これをピグー税といいます。
また、外部経済の場合は過少生産になっています。この場合、補助金を出すことで生産を促進します。これにより、私的限界費用(PMC)を社会的限界費用(SMC)まで下げます。
コスト | 均衡点 | ピグー的政策 | |
---|---|---|---|
外部不経済 | SMC>PMC | 需要曲線とPMC曲線の交点 | 租税 ピグー税 |
外部経済 | SMC<PMC | 需要曲線とSMC曲線の交点 | 補助金 ピグー的補助金 |
費用逓減産業
費用逓減産業とは?
電気・ガス・水道などの社会的なインフラは、財・サービスの供給を開始する以前に莫大な設備投資が必要になってきます。こうした産業のことを費用逓減産業と言います。
こうした産業は固定費用(FC)が大きいため、生産を増加させるたびに平均費用(AC)が減少する産業のことを指します。つまり、最初に大きなお金を持っている人が設備に投資すれば、その後のコストパフォーマンスが非常に良い産業なのです。
電気やガスなどの産業は総費用(TC)に対する、固定費用(FC)割合が大きいです。そのため、生産量が増えるにつれて平均費用(AC)も減少することになります。
これらの、産業は市場原理に任せていると独占企業へと成長していきます。そのため、政府が中心となって運営している国がほとんどになります。
自然独占
費用逓減産業は市場原理に任せていると、独占産業になってしまします。これを自然独占と言います。
独占状態なので、利潤最大化条件は限界収入(MR)=限界費用(MC)になります。この自然独占には、社会全体でみると厚生損失を生み出してしまいます。
費用逓減産業は、人々の生活に必要不可欠なものを生産することが多く、政府が補助金や租税によって規制する必要性があります。
費用低減産業の詳細に関しては以下の記事で解説しています。併せてお読みください。
公共財とは何か?
公共財とは?
公共財には、国防・警察・消防などがあります。民間の企業が供給するには難しいものが多く含まれます。こうした、政府が供給するサービスを公共財といいます。
公共財の特徴には
- 非競合性
- 非排除性
の二つがあげられます。この特徴について以下で詳しく解説していきます。
非競合性
これに対して、公共財については、消費者間で競争はおこなわれません。このことを、消費の非競合性といいます。
つまり、どのような消費者にも平等に供給されるされるのです。例えば、警察に守ってもらうというサービスは、お金がなくても持っていても平等に享受することができるようなことが挙げられます。
非排除性
公共財は、対価を支払わない消費者であっても利用が可能です。このことを消費の非排除性といいます。また、こうした公共財を対価を支払わずに利用する消費者をフリーライダーといいます。
不確実性
不確実性とは?
将来の予測を事前に立てることができないことを不確実性と言います。完全競争市場では、完全情報と呼ばれる状態に個人はいると前提があります。そのため未来のことについてもすべて予測ができるとします。
しかし、現実には未来のことを完全に予測することはできません。どこかの企業の株を買うことには不確実性が常に存在するのです。
期待効用
期待効用とは、予測される効用という意味です。
経済学では、期待は予測とほぼ同じ意味で使われています。個人は確実な効用と期待効果を比較して選択を行います。
例えば投資家たちは、確実に得られる効用と不確実性の高い期待効用を比較して行動しています。
現金(確実な効用)として持つより、これから伸びるかもしれない企業の株(期待)を持っていた方が、将来的に利益が出るなら、投資家は企業の株を買うのです。
詳しくは以下の不確実性とはに関する記事をお読みください。
情報の非対称性
情報の非対称性
売買をおこなう経済主体の間で財・サービスに関する品質の点で情報の格差が存在することを、情報の非対称性といいます。
それが
- 逆選択(アドバースセレクション)
- 道徳的危険(モラル・ハザード)
です。以下で詳細に解説していきます。
逆選択(アドバース・セレクション)
品質の良い財が市場から排除され、品質の悪い財が市場で選択されるようになるケースを逆選択(アドバース・セレクション)といいます。
たとえば、中古車市場がそれにあたります。中古車の品質に関しては売り手の方が持っているケースが多いです。
その際に、品質の悪い車ばかりを高い値段で売ろうとするでしょう。こうした行動の積み重ねは、が品質の悪い自動車を市場に溢れさせることになります。
この解決策として、バイヤーが品質について情報を発信するシグナリング(シグナル)があげられます。具体例として、労働市場における資格などがそれにあたります。
道徳的危険(モラル・ハザード)
もう一つがモラルハザードです。モラルハザードにおける経済主体として依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)があります。
- サービスを受ける側を依頼人(プリンシパル)、
- サービスを提供する側を代理人(エージェント)
といいます。
この場合も、サービスに対する知識は代理人の方が持っているケースが多いです。この時に依頼人が代理人の行動を把握することは難しくなります。
たとえば、営業マンなどがそれにあたります。外回りと称してパチンコをしてる営業マンはよく見る光景です。こうした行動を把握することは、難しくなります。
こうした、依頼人が知識の格差によって経済的不利益を被ることを道徳的危険(モラル・ハザード)と言います。
これに対する対処小として、インセンティブ(誘引)を与える契約をすることである程度防止することが可能になります。具体例として、歩合給などにすることでやる気を引き出すケースなどはそれにあたります。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!
それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。