この記事では一般均衡分析を解説します。一般均衡分析は、最適な資源配分がどのようにしてなされるかについて分析するミクロ経済学の理論の1つです。
別の記事で解説した、部分均衡分析は1つの財の市場を対象に分析を進めます。
ミクロ経済学に関してまだ理解が深められていないという方はこちらの記事も合わせて読んでみてください。
一般均衡分析とは?
一般均衡分析は、全ての市場を均衡させる価格・数量に関する理論です。
提唱者は、レオン=ワルラスという経済学者です。フランスの経済学者でローザンヌ学派の始祖です。限界効用理論を提示した近代経済学の創始者の一人です。
一般均衡理論は、全ての市場における最適な資源配分を分析する理論です。
一方で、部分均衡理論は1つの財市場を対象にした理論になります。提唱者はアルフレッド・マーシャルという経済学者です。一般均衡理論はのちに説明するエッジワース・ボックスなどを分析手法としますが、部分衡理論では、余剰分析という手法を使用する点に違いがあります。
一般均衡理論 | 部分均衡理論 | |
---|---|---|
提唱者 | レオン=ワルラス | アルフレッド=マーシャル |
意味 | 全ての市場を均衡させる 価格・数量に関する理論 | 1つの財市場を均衡させる 価格・数量に関する理論 |
効率性の 判断基準 | パレート効率性の実現 | 総余剰の最大化 |
市場の 調整過程 | ワルラス調整過程・価格が調整される | マーシャル調整過程・数量が調整される |
分析手法 | エッジワークス・ボックス | 余剰分析 |
またここで重要なのが一般均衡理論も部分均衡分析も完全競争市場を前提としている点です。ここは押さえておきましょう。
部分均衡分析についてより詳しく知りたい方は以下の記事も合わせて読んでみてください。
市場均衡とは?
市場には不均衡状態から均衡状態にいたるまでの調整機能があります。この不均衡状態から均衡状態へと市場は常に調整されていくとします。いわば神の見えざる手とも言えます。
その際に、一般均衡理論では数量の調整を主に取り扱います。
価格の調整:ワルラス調整過程
需要と供給の不均衡の時、価格において調整がおこなわれることをワルラス調整過程といいます。一般均衡理論では価格を中心とした市場均衡へのプロセスが展開されるとしています。
ワルラスという経済学者が提唱したことからこの名前が付けられています。
この調整過程は非耐久財に多くみられます。非耐久財とは、消耗品などの長持ちしない商品に当てはまります。
具体例として、超過供給の場合であればスーパーの閉店前の惣菜の値引きセールがあります。販売者側は、売れ残ることで供給過多になってしまいました。それを価格を調整することで売り切ろうとするのです。これが身近なワルラス調整過程です。
補足:マーシャル調整過程
続いて、需要と供給が不均衡の際に、数量の調整がおこなわれる過程のことをマーシャル調整過程といいます。これは、部分均衡理論において前提となる市場均衡プロセスです。
この調整過程に当てはまる財の種類として耐久財が多くみられます。耐久財とは、長持ちする財のことです。
具体例として、自動車や家電製品、家などがあげられます。自動車などは、需要が大きい場合に大量生産体制を整えることで取引量の調整をおこないます。この場合は超過需要です。
逆に超過供給の場合、需要が小さく在庫がするので、生産量を縮小することで対処します。
これが身近なマーシャル調整過程です。
パレート効率性とは?
パレート効率的資源配分
効率的な資源配分がなされる状態を、パレート効率的資源配分といいます。他の人の効用を減少させないことには、ある人の効用を増加させることができない状態です。一般均衡理論では、パレート効率的な状態でこそ最適な資源配分がなされるとしています。
例えば、ある人がピザ一枚食べたいと思っているとします。しかし、自分以外にもう一人がいたら2つに分割しなければいけないのです。他に2人いるなら3つに分割しなければいけません。
このように全員にピザが行き渡っているような状態がパレート効率的資源配分なのです。ピザが余っても不足してもダメなのです。
この時、ピザを等分にする必要性は必ずしもないという点は頭に入れておきましょう。
パレート改善
誰の効用も悪化させることなく、少なくとも一人の効用を高めることができるように資源配分を改善することをパレート改善と言います。
パレート効率的資源配分は他の人の効用を減少させないことには、ある人の効用を増加させることができない状態でした。
例えば、二人の経済主体がいて、ピザが余っている状態があるとします。この時、片方の経済主体の効用を下げないように、ピザが余らない状態に配分し直すようします。これがパレート改善です。
ボックス・ダイアグラムとは?
ボックスダイアグラムとは?
資源配分をグラフであらわしたものをエッジワースのボックス・ダイアグラムといいます。前提としてボックスダイアグラムは2人の消費者が2つの財を交換し合う純粋交換経済が想定されています。
ボックスダイアグラムは一般均衡分析における、最適な資源配分の分析手法になります。
ボックスダイアグラムは、二人の経済主体の無差別曲線を組み合わせることで表すことができます。無差別曲線に関しては消費者理論のところで解説しているので、知りたい方はそちらも見てみてください。
ここではX財とY財と経済主体のaとbが存在すると仮定します。すると、横軸はX財の量で、縦軸はY財の量を示しています。ボックスダイアグラムは二人の経済主体を想定するので左下と右上に原点を置くことになります。
仮定
- 経済主体a,bが存在
- X財とY財のみの市場
これらの仮定を元にボックスダイアグラムを描くと以下のようになります。aとbにとっての無差別曲線を組み合わせた形になることがわかると思います。
パレート効率的資源配分の状態
パレート効率的資源配分が実現している地点は、2人の経済主体の無差別曲線の接点がそれにあたります。この点に接線の傾きはX財とY財の価格比(Px/Py)等しくなります。
またパレート効率的状況において、aとbにとっての限界代替率(MRS)が等しくなります(限界代替率は、X財を1単位増やしたときに,同じ効用を保つためには何単位Y財を減らさないといけないかということ)。
そこで、パレート効率的資源配分の条件として、次の関係が導き出されます。
aの限界代替率(MRSa) = bの限界代替率(MRSb)
パレート改善
パレート改善はパレート効率的な状況へと無差別曲線が推移すること状態で表されます。
以下のグラフの場合、主体aが得られる効用の水準を上げ、bの効用を維持することででパレート改善がなされている状態です。余ったピザを経済主体aに再配分するのにあたります。
契約曲線
パレート効率的である、無差別曲線の接点を結んだ曲線を契約曲線といいます。
厚生経済学について
これまで、パレート効率的な資源配分が良いという前提のもと話を進めてきました。しかし、効率的とは無駄がないということであって、公平性は担保されません。
例えば、片方に資源が偏った方が効率的なら、平等とかそう行ったものは無視されてしまうのがパレート効率性なのです。
規範的に望ましい資源配分とは何か?そのメカニズムは望ましい資源配分を実現しているか?できていないなら、政府はどのように動くべきか?と行ったことを研究するのが厚生経済学です。この節では厚生経済学の考え方などの基本的なことについて触れていきます。
競争均衡
パレート効率的資源配分は、純粋交換経済以外の場合でも達成されます。それは価格調整によって達成されます。価格調整によってもたらされる均衡を競争均衡(ワルラス均衡)といいます。
競争均衡の条件
価格調整によってパレート効率的な資源配分が達成される場合、2人の無差別曲線は1点で接しています。この接点には共通の接線が引けます。
この接線の傾きは価格調整によって望ましい資源配分をおこなうことができる価格比をあらわしています。
aの限界代替率(MRSa)=bの限界代替率(MRSb)=価格比(Px/Py)
厚生経済学の第1定理
競争均衡は、完全競争市場で価格調整を通じて達成されます。これを、厚生経済学の第1定理といいます。完全競争市場においてパレート効率的な資源配分が達成されるという仮定です。
厚生経済学の第2定理
パレート効率的資源配分は効率的な資源配分であり、無駄のない配分です。しかし、これにより問題があります。それは格差が生まれてしまう可能性があるという点です。この時に政府の所得政策が役に立ちます。
そこで、厚生経済学の第2定理が役立ちます。この原理は最初に政府が適切な所得分配をおこなえば、任意のパレート効率的な資源配分を達成させることができるという意味です。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!
それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。