この記事では、マクロ経済学における労働市場の分析手法あるAD-AS分析について解説します。
以下の図はマクロ経済の全体像になります。今回はそのうちのヒトを取り扱う労働市場を主要テーマnになります。
なかなか重厚な内容になります。まだマクロ経済に関して理解が追いついていないよという人は、以下の記事を読んでみてください。
労働市場の三つのキーワード
モノを作るためにヒトが働く必要があります。そのため、企業は労働者を雇用します。別の言い方をすれば労働力を企業が購入します。こうした労働力を取引する市場のことを労働市場といいます。
労働市場において
- 賃金
- 物価
- 失業率
の三つが重要なキーワードになります。それぞれ、解説していきます。
賃金・賃金率
労働の対価として支払われるのは賃金(W:Wage)です。つまり賃金率です。賃金率(W)を見れば経済の状態がわかるといわれています。
景気がいい時には、労働需要が増加して人手が不足するので賃金率(W)は上昇します。一方で、景気が悪い時には労働需要が減少し、人手が余るので賃金率は減少します。
物価
また、賃金が高いのか低いのかは、物価が高いのか低いのかを考慮する必要性があります。インフレーションやデフレーションなどというように、物価は変動します。
昔の100円は非常に価値が高かったですが、現在ではそこまで価値は高くないことからもわかると思います。
失業率
失業率は、労働力人口のなかで失業者が占める割合のことです。計算式は以下のようになります。もちろん先に書いたように、ここでの労働力も雇用者と失業者の合計となります。
失業率=失業者数/労働力人口×100
=失業者数/(雇用数+失業者数)×100
AD曲線(総需要曲線)とは?
IS-LM分析にさらに労働市場の分析を加えたのがAD-AS分析です。AD-AS分析では、物価水準と国民所得の関係を分析します。
AD曲線(総需要曲線)とは?
IS-LM分析では、物価は一定と仮定して分析をおこないました(IS-LM分析に関しては以下の記事を読んでみてください)。
この仮定を変えて、物価が変化を考慮すした場合、国民所得の水準はどうなるのかをみていきます。
そこで、財市場と貨幣市場を同時に均衡させる物価と国民所得の組み合わせを表したのものがAD曲線(総需要曲線)になります。一般的に右下がりの曲線になります。(以下の図参照)
AD曲線の導出方法
AD曲線の導出方法について解説していきます。AD曲線はIS-LM曲線を用いることで導出することができます。
物価が下落した状態(デフレ)においては、(初期の物価水準をP0とすして、下落した物価はP1)実質的にマネー・サプライが増加したことと同義になります。
そのため物価が下落した場合、LM曲線が右方シフトし、拡張的な金融政策を行った時と同じ状態になります。
シフト後の均衡点では、利子率は低下し、国民所得は増加します。(下記のグラフのLM’)
ここから物価が下落した場合には国民所得が増加する関係性が見えてきます。これを縦軸を物価(P)、横軸を国民所得(Y)としたグラフに落とし込むとAD曲線が出来上がります。
財政政策をおこなった場合のAD曲線
拡張的な財政政策をおこなった場合、IS曲線が右方シフトします。
このとき、同じ物価水準と仮定した場合、国民所得が増加するのでAD曲線は右方シフトします。
逆に、緊縮的財政政策をおこなった場合にはAD曲線は左方シフトします。
金融政策をおこなった場合のAD曲線
拡張的な金融政策をおこなった場合、LM曲線が右方シフトします。
このとき、同じ物価水準のもとでは、国民所得が増加」するのでAD曲線は右方シフトします。
逆に縮小的な金融政策をおこなった場合はAD曲線は左方シフトします・
AS曲線(総供給曲線)とは?
AS曲線(総供給曲線)は、古典派とケインズ派で大きく異なります。
- ケインズ派
- 古典派
の2つがあります。
まずここではケインズ派の貨幣需要の考え方について解説していきます。ケインズ派とは、ジョンメイナード・ケインズという経済学者が打ち立てた経済学の潮流のことです。
一方で、古典派とはアダムスミスを始祖とする潮流のことです。
詳細についてケ以下の記事で解説しているので読んでみてください。
AD曲線では財市場における総需要が大きな影響を与えてきました。しかし、AS曲線は、労働市場の状況によって大きく変化します。
AS曲線(総供給曲線)とは?
このAS曲線が何をあらわしているかについては、古典派とケインズ派は異なります。
古典派のAS曲線(総供給曲線)では、労働市場が均衡している物価と国民所得の組合せをあらわします。
これに対してケインズ派のAS曲線(総供給曲線)では、企業の利潤が最大となる物価と国民所得の組合せをあらわします。
以下では、より詳細に古典派とケインズ派のAS曲線について説明していきます。
古典派のAS曲線
古典派のAS曲線は完全雇用国民所得の水準で垂直になります。
古典派は、労働市場では常に完全雇用が達成されていると考えます。まず、物価(P)が上昇すると、実質賃金率(W/P)が低下します。
実質賃金率が低下すると人を安く雇用できるようになります。結果、労働需要は増加し、労働市場は超過需要となります。
古典派は名目賃金率(P)が伸縮的と仮定するため、 超過需要の時は労働者が足りない状態なので、名目賃金率(P)は上昇します。そして、実質賃金率(W/P)も上昇し労働市場において需給が均衡することになります。
古典派において、労働市場は、つねに完全雇用であるという前提があります。よって古典派のAS曲線は完全雇用国民所得の水準で垂直になります。
ケインズ派のAS曲線
ケインズ派のAS曲線は通常は右上がりになります。古典派と異なる理由は、ケインズ派は名目賃金率は下方硬直的と考えるからです。
ケインズ派のAS曲線が右上がりとなる理由を解説していきます。
まず、物価(P)が上昇したとします。すると、名目賃金率(w)は一定の下で、実質賃金(w/P)は下落します。実質賃金(w/P)が下落によって企業が労働者を雇うコストが小さくなります。
そのため、企業は財の生産を多くしようとします。生産量が増えたことによって、一国全体の国民所得(Y)が増加します。
物価(P)の上昇によって、国民所得Yが増加するという右上がりのAS曲線が完成します。
完全雇用が達成されている状態ではケインズ派のAS曲線も垂直になります。
これにより以下の図のようなAS曲線が完成します
AD-AS分析
AD-AS分析とは、IS-LM分析を発展させて労働市場を分析し、財政政策と金融政策の効果を分析します。
財政政策と金融政策によるAD曲線のシフト
拡張的な財政政策をおこなうとAD曲線は右シフトします。このとき国民所得は増加し、物価は上昇します。よって、財政政策は有効になります。
拡張的な金融政策をおこなうと、AD曲線は右シフトします。このとき国民所得は増加し、物価は上昇します。よって、金融政策は有効になります。
結果として、金融政策をしても財政政策をしても同様の結果になると考えてよいでしょう。
物価の上昇:ディマンド・プル・インフレ
財政政策や金融政策によってAD曲線が右上シフトし、物価が上昇することを説明してきました。
このように、総需要サイドが原因となって発生するインフレーションをディマンド・プル・インフレーションといいます。
物価の上昇:コスト・プッシュ・インフレ
AS曲線が右上シフトした場合、物価は上昇します。要因として原材料価格などの上昇があげられます。1970年代に起こった石油危機などは有名な事例です。
総供給サイドが原因となって発生するインフレーションをコスト・プッシュ・インフレーションといいます。ディマンド・プル・インフレーションの場合、物価の上昇とともに国民所得も増加しております。
これに対して、コスト・プッシュ・インフレーションの場合は、物価が上昇しているのにもかかわらず、国民所得は減少しております。このような状態をスタグフレーションといいます。
AD-AS分析と混同しやすい分析モデル:IS-LM分析・45度線分析
AD-AS分析は一国の経済状況を測る上で非常に有効です。しかしAD-AS分析はあくまで財市場、労働市場、貨幣市場を総体的に分析するモデルになります。
一方で、IS-LM分析は財市場と貨幣市場の関係性を分析するモデルになります。
また、45度分析はケインズ経済学の基本的な考えを示す非常に単純なモデルで、マクロ経済学において1930年代から40年代のケインズ以来、長期間に渡って利用されてきました。
まとめると、45度線分析は、財市場。財市場に貨幣市場を加えたものをIS-LM分析、労働市場と貨幣市場を考慮した分析モデルがAD-AS分析と言います。
45度線分析やIS-LM分析は以下の記事で解説しています。あわせてお読みください。
フィリップス曲線(工事中)
フィリップス曲線とはインフレ動向を分析、予測する際に欠かせないものとなっております。具体的には、物価上昇率と失業率の間のトレード・オフ関係を分析します。
失業率
労働市場の分析にはAD-AS分析以外に、フィリップス曲線があります。この分析では、失業率がポイントとなります。一般的に、景気の良いときは、失業率は低くなります。人手不足の状態では賃金は上昇します。
この失業率と賃金の関係をあらわしたものがフィリップス曲線です。
フィリップス曲線
フィリップス曲線では、名目賃金上昇率と失業率の間のトレード・オフ関係をあらわします。
トレードオフ関係とは、負の相関関係です名目賃金上昇率が上がれば失業率は上がります。横軸は失業率で、縦軸は名目賃金上昇率になります。
物価版フィリップス曲線
名目賃金上昇率が高い状態は、経済が過熱傾向にあるときです。この場合、物価の上昇率も高くなると考えられます。
このように物価上昇率と失業率の間をあらわしたものが物価版フィリップス曲線です。
自然失業率仮説
フィリップス曲線を描くと、右下がりの形であらわされます。
このフィリップス曲線は、短期で見た場合に人々の経済に対する期待(expectation)を受けて、シフトする場合があります。
長期的に見た場合、古典派は長期的には垂直になるとしています。古典派は、労働市場は伸縮的であると考えますので、完全雇用が達成されことになります。
このように完全雇用が達成されているときの失業率を自然失業率といいます。
古典派は、長期的にはフィリップス曲線はこの自然失業率の水準で垂直の形となると考えます。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!
それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。