この記事では、現在のマクロ経済学にも繋がるケインズ経済学の祖、ジョン・メイナード・ケインズについて解説します。この記事を読むことでケインズという人物とケインズ経済学について理解できます。
ひいては、経済学の理解を深めることもできるでしょう。基本的に、当記事は経済学の知識がない方でも読むことが可能です。
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ケインズの生涯
ジョン・メイナード・ケインズは、イギリスの経済学者です。
1883年にイギリスのケンブリッジで生まれました。父はケンブリッジ大学の経済学者で、母親はケンブリッジ市の市長になった人物です。
ケインズはケンブリッジ大学に入学し、経済学のアルフレッド・マーシャルやセシル・ピグー、数学のノーア・ホワイトヘッドなど当時を代表する学者に学びました。
その後、インド省に入省したのち、ケンブリッジ大学に戻り教職に就きます。
1915年になると大蔵省に入省し第一次世界大戦の戦費調達を遂行しました。
終戦後はパリ講和会議に臨み、ドイツへの多額の賠償金請求に強硬に反対したことは有名です。
結果として、ケインズの主張は受け入れられませんでした。しかし、1919年に執筆した『平和の経済的帰結』が驚異的なベストセラーとなり、一躍有名になりました。
1923年には『貨幣改革論』を出版し、インフレやデフレによる経済のダメージを防ぐために金本位制の離脱し、通貨供給量をコントロールするべきと主張しました。
第二次世界大戦後にはブレトン・ウッズ体制の確立に重要な役割を果たし、国際通貨基金や世界銀行の設立に尽力しています。しかし、この激務から1946年に体調を崩しこの世を去ることになりました。
世界恐慌とケインズ経済学
ケインズ経済学が生まれるきっかけとなったのは、1930年代の世界恐慌です。この時、街は多くの失業者で溢れかえり、全財産を失い自殺するものもいました。
この経済問題の処方箋として書かれたのが『雇用、利子および貨幣の一般理論』です。この本はこれまでの経済学の考え方を一変させました
主流派の古典派経済学
ケインズ以前までの主流の考え方は、古典派経済学が主張する均衡財政でした。
古典派経済学は、市場が自動調整機能を持っているため政府は介入すべきでないとの立場に立っていました。
そこで彼らは均衡財政を主張しました。均衡財政とは、税収の範囲内でしか経済政策を行わないことを指します。
そのため、1930年代の恐慌による失業も一時的なもので、長期的に見れば雇用可能な人口は社会の中で効率的に利用されるため、結果として失業は起こらないとしていました。
ケインズ経済学
ケインズは、政府の介入を主張しました。なぜなら、市場の自動調整機能による完全雇用は達成されないと考えていたからです。
現実には別の仕事に転職するまでの合間にいる人、求職中の人、働けない人、働く意思のない人といった失業者が存在します。
他にも賃金には非伸縮的な性質を持っていることをケインズは指摘しています。経済状態が変化していても、賃金の変化が追いつかない場合があります。例えば、景気がどんなに悪くても、労働組合が賃下げを拒否する場合があげられます。
これらのことから市場の自動調整機能による完全雇用は実現しないと考えたのです。
長期的に見ればいつかは均衡するかもしれません。しかし、何百万人もの人が犠牲になるのを見逃すわけには行かないのです。そこで、ケインズは政府による介入を主張したのです。
ケインズ経済学の全体像
では、続いてケインズの理論の全体像を見ていきましょう。ケインズの理論は、経済をストックとフローに分けています。
ストックにおける登場人物は、資産を運用することで生活する金利生活者(投資家)階級です。一方で、フローでは、労働によって生活する企業家階級や労働者階級が登場人物です。
ケインズはこのそれぞれの登場人物に対してどのような政策を行うべきかを論じています。具体的には、
- 金利生活者/ストックに対しては金融政策
- 労働者階級・企業家階級/フローに対しては財政政策
が有効であると述べています。
企業家階級や労働者階級が生きるフローの世界では、のちに説明する有効需要の原理が重要になってきます。一方で、金利生活者階級の世界では流動性選好説が重要になっています。
詳細は次節で解説します。
政府による財政政策:有効需要の原理:
ケインズは、有効需要を喚起するために政府は財政政策を行うべきと考えました。なぜなら需要を喚起することで雇用が生まれるからです。その主軸となる理論が
- 有効需要の原理
- 乗数効果
になります。
財政政策は、先に説明した企業家階級や労働者階級の住む、フローを対象とした政策であると考えられます。
以下で、具体的に見ていきましょう。
有効需要の原理
ケインズは、失業は雇用自体に問題があるのではなく有効需要の不足にから生じると考えました。
有効需要とは、貨幣的裏付けのある需要のことをさします。
古典派が使用してきた需要とは人々が頭の中で欲しいと思っている事自体が需要という意味でした。しかしケインズのいう有効需要は、買いたいと思うだけではなく貨幣支出の裏付けがあるものなのです。
有効需要の原理とは有効需要が、雇用量や国民所得などの国の経済規模を決定するという考えのことです。ちなみに、有効需要とは消費や投資のことを指します。
需要(消費・投資)を喚起することで、生産量(国民所得)が増えます。その結果として雇用量が増えるとケインズは考えていました。 順番として需要(消費・投資)→生産量(国民所得)→雇用量になります。
では、なぜ消費や投資を増やすことで国民所得が増え、雇用量が増えるのでしょうか?その理論的根拠となるのが乗数効果です。
乗数効果
財政政策とは政府による公共投資や減税などを通して経済に影響を与える経済政策のことです。ケインズはこの財政政策を行うべきと考えました。
それは乗数効果によるものです。乗数効果とは、政府による財政支出の派生効果により、その何倍もの需要を生み、有効需要を押し上げる効果のことです。
政府によって、公共投資などの財政支出が行われることで、波及的に生産者が投資を増やし、国民所得が増加し、消費が増加し、さらに消費が増えるという、需要拡大が好循環がなされていくのです。
ケインズは、不況の時には紙幣を瓶に詰めて何千人もの失業者を集めて掘り出させればよいと述べています。一見無駄遣いな財政政策ですが、完全雇用を達成されるならば、総合的なコストを上回り元が取れるのです。
ここまではフローの世界の解説でした。ケインズは、先にも述べたように金融政策の重要性も説いていました。次の説では、その根拠とな流動性選好説を中心に解説をしていきます。
中央銀行による金融政策:流動性選好説
人々は、所得のうち一部を消費に使い、貯蓄に回します。貯蓄をする際に債権ではなく現金として持つことをケインズは批判しています。
なぜなら、債権で持っている場合は、企業などにお金が回り投資が盛んになる可能性があります。しかし、人々が貨幣で持っているだけでは、世の中にお金の動きが悪くなってしまいます。
そこで、金利生活者たちの経済にとって良くない性質を説明するために生まれたのが流動性選好説なのです。
流動性選好説:貨幣需要
流動性選好説について解説する前に、ストックの世界の前提を押さえておきましょう。
金利生活者階級は、資産として貨幣と債券のどちらか利益になる方を選んで所持します。
債券(株式や国債など)は、ある一定の期間を持っていれば利子が付きます。一方で、貨幣(現金など)は利子がつきません。一見債権の方がお金が増えそうです。
それでも、貨幣で持とうとするのは貨幣には流動性があるからです。流動性とはすぐ交換できる性質のことを指します。債権はすぐに商品を買えませんが、貨幣ではすぐにモノを購入することができます。
流動性の高い貨幣を持とうとする傾向のことを流動性選好というのです。
ケインズは、この金利生活者たちの流動性選好をなるべく下げることが、経済にとって良いと考えました。そこで、重要になってくるのが利子率です。
利子率を調整することで、ある程度景気を調整することができるのです。そこで中央銀行による金融政策の出番なのです。
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中央銀行による金融政策
中央銀行は、一般の銀行にお金を貸し出します。お金を貸すわけですから利子をとります。この、金利を上下させることによって、お金の流通量を変化させることができます。
例えば、金利を下げる→ お金が借りやすくなる→ 投資が増える→ 国民所得が増えるというのが上げられます。
不景気では、金融政策は利子率を低い水準に保つとうとします。利子率を上げてしまうと投資が冷え込んで国民所得が減ってしまいます。
そこで中央銀行はなるべく利子率を下げて需要(投資・消費)を喚起するようにします。
さいごに
また、ケインズについてもっと詳しく学びたいというかたに、オススメの書籍を紹介します!
まずケインズの『一般理論』を漫画で解説した書籍が出ています。こちらは、本当にわかりやすいのでオススメです。自分も最初はこの本から読み始めました。
もし、ある程度ケインズについて全体像を理解できたら原典にあたってみるのも良いでしょう。正直かなりヘビーで読み切るのに苦労しました。
しかし、もし読みきれなくても本棚にあるだけであなたの本棚偏差値は爆上がりすることは間違いないです。
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それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。
また、マクロ経済学の記事をいかにまとめましたので参考までにどうぞ!