この記事では、カネを売り買いする市場である貨幣市場と債権市場について取り扱います。また、これらを理解する上で肝となる
- 貨幣需要
- 貨幣供給
について徹底解説します。
今回は、マクロ経済このうちのカネを取り扱うのが貨幣-債券市場がメインになります。
また、マクロ経済学に関する記事の一覧を以下に載せておきます。あわせてお読みください。
貨幣市場と債券市場
貨幣-債権(資産)市場とは?
貨幣-債券(債権)市場とは、カネが取引される市場のことです。カネにも二種類あり
- 貨幣
- 債券
の二つがあります。貨幣とは現金や預金などのカネ、債券は国債と社債、株といったものが挙げられます。
カネは、財・サービスの売り買いの際に使用されます。皆さんの生活にも馴染み深いカネの使い方だと思います。これは財市場でのお金の使い方です。
一方で、貨幣-債券市場では、カネを使ってカネを増やすことができます。そこで人々は金でカネを増やすために、貨幣と債券でよりカネが増える方を選択します。
貨幣の役割
貨幣(money)には3つの役割があります。まず、
- ①価値尺度
- ②交換手段
- ③価値の保有手段
としての役割があります。
①は財やサービスの価値を表す役割があることを指します。
②は財と交換する手段としての役割のことを指します。また、②のような役割があることから、貨幣は流動性ともよばれます。
③は貨幣は貯蔵が可能であるということです。貨幣は腐りませんし古くもなりません。
債券の役割
債券(bond)とは、政府や企業がお金を集めることを目的として発行する借用証明書のことです。ようは借金です。例えば国債や社債があげられます。
また、債権の対価として支払うものが利子(利息)です。
元金に対してどれだけの利子を支払うかを割合で示したものが利子率(interest rate:市場利子率)です。社債などの場合、銀行を仲介してこの利子が支払われます。
貨幣-債権市場の仕組み
資産を貨幣と債券のどちらで保有するかは、この利子率によって決定されます。
また、債券価格は市場利子率と反比例するのが通例となっています。利子率が高いほど債権価格は低くなります。
ケインズ派の貨幣需要
貨幣需要の考え方には
- ケインズ派
- 古典派
の2つがあります。
まずここではケインズ派の貨幣需要の考え方について解説していきます。ケインズ派とは、ジョンメイナード・ケインズという経済学者が打ち立てた経済学の潮流のことです。
また、ケインズについては以下の記事で解説しているので読んでみてください。
貨幣需要の動機
貨幣を欲しがる動機として、次の3つがあげられます。
- 取引動機:財の取引に使用するため。
- 予備的動機:将来の不確実な支払に備えるため
- 投機的動機:資産運用のため。
この3つをケインズ派は、貨幣を需要する動機と考えます。
取引動機と予備的動機において、貨幣需要は国民所得と比例します。
国民所得が増えれば取引も増えるので、それに使われる貨幣に対する需要も増加するのです
投機的動機の貨幣需要は利子率と反比例します。つまり、金融機関でお金を貸し借りするときの利子率です。
具体的にいうと利子率が下がると貨幣需要は増加し、利子率が上ると貨幣需要が減少するということです。
流動性選好説
流動性とは貨幣のことを指します。どうゆうことか。
債権や株式は利息がつきますが、貨幣には利息がつきません。その代わり、すぐに目の前にある商品を購入することができます。つまり財・サービスとの交換が容易なのです。この容易さが流動性という意味になるのです。
流動性選好説とは、資産を貨幣でもつか、債権や株式でもつかを人々が決定するのは利子率で決まるという理論です。利息が高い方が人は債権に資産を回しますが、利息が低ければ貨幣として保有することになるからです。
債券価格と利子率の関係
つづいて債券と利子率の関係性について説明をしていきます。
まず、債権価格は利息率によって決まります。
まず、債権には利息がつきます。利子率に基づいて貨幣と債権のどちらを保有するのが得なのかを考え選択します。
債権を買うのと貨幣を今使ってしまう方がお得なのかを考える必要があるか?ということです。
そのため、債券価格は利子率と反比例します。これがなぜなのかは、次の割引現在価値を理解する必要性があります。
割引現在価値
割引現在価値とは、将来受け取れると見込まれる利益は、現在時点ではいくらの価値になるのかという考え方です。
例えば、利子率年間50%の100万円の債権の場合、1年後には150万円になります。この場合、今の100万円と1年後の150万円は同じ価値なのです。これが大まかな割引現在価値の考え方です。
例えば利子率が高い状態は、債権に比べて貨幣の方が割引現在価値が高く見られている状態です。その結果、貨幣に人気出るのです。つまり、流動性選好性が高くなるのです。
割引現在価値に基づき人々が判断することによって、債券価格と利子率は反比例することになるのです。
貨幣需要と利子率の関係
この債券価格と利子率の関係が貨幣需要にどのような影響与えるのかを見てましょう。
結論から言うと、貨幣価格と利子率は反比例の関係にあります。
例えば、利子率が上がると債券価格が下落します。すると、債券需要が減少し貨幣需要が増加します。なぜなら、「安いうちに買っておいたほうが良いな」と人々が判断するからです。
結果、債権需要が上がり、貨幣需要が減少するのです。(以下の図参照)
貨幣需要(古典派)
これまで、ケインズ派の貨幣需要について学んできました。
続いて古典派の貨幣需要について古典派の考え方を学んで行きましょう。ここでは貨幣数量説という考え方になります。
貨幣数量説とは?
古典派は、貨幣数量説にもとづいた貨幣需要関数を想定します。
貨幣数量説を提唱したのは、ミルトン・フリードマンという経済学者です。
マネタリズムという、貨幣の量を中央銀行がコントロールすれば物価や景気を操作できるという考えが前提にあります。
貨幣数量説は、国民所得に対して貨幣の数量を変えたとしても影響を与えないとします。その代わり、物価水準を比例的に変化させるだけだと考えます。
この考え方の根拠に、貨幣の中立性があります。貨幣はあくまで取引の仲立ちをするだけであり、国民所得に対して影響を与えないとするのです。
とはいえ、物価水準が変化すると人々の生活に影響を与えるので、貨幣の流通量は管理する必要性があります。
2つの式
貨幣数量説においては物価と貨幣量の関係性を数式で表します。それが
- フィッシャーの交換方程式
- ケンブリッジの現金残高方程式
です。つづいてこちらについて解説をしていきます。
フィッシャーの交換方程式について
フィッシャーの交換方程式では、取引に必要な貨幣の量を表現しております。詳しく説明していきます。
たとえば、ある国のGDPが100兆円だとします。取引には貨幣が必要とはいえ、貨幣を100兆円分発行する必要はありません。なぜなら、
っているからです。
そのため、10兆円分発行して、10回取引で使われれば10兆円×10回=100兆円で事足りるわけです。これがフィッシャーの交換方程式の基本的な考え方です。
フィッシャーの交換方程式は次の形で表されます。
MV=PT
これは、市場に貨幣がどれだけ循環したのかを示した式です。
MVについて、
- M:マネーサプライ(MoneySupply:発行された貨幣の量)
- V:貨幣の流通速度(velocity)
をかける事で
PTについて、
- P:物価水準(prices)
- T:取引量(trade)
をかける事で国民所得を表します。
◆フィッシャーの交換方程式
MV=PT
- M:マネーサプライ(money supply)
- V:貨幣の流通速度(velocity)
- P:物価水準(prices)
- T:取引量(trade)
→市場に貨幣がどれだけ循環したのかを示した式
全体の取引(PT)のために発行された貨幣(M)が、循環して(V)必要な貨幣をみたすと言ったイメージになります。
ここで、貨幣の流通速度(V)と取引量(T)は変化しないと考えましょう。
政府がマネー・サプライ(M)を増加させると、物価水準(P)が比例して上昇することがわかると思います。
このように政府がマネー・サプライを操作する政策を金融政策といいます。
ケンブリッジの現金残高方程式
貨幣量(マネーサプライ)と物価水準(P)の関係性を表す数式に、ケンブリッジの現金残高方程式があげられます。
国民所得(GDP)に一定の値をかけたものがマネーサプライになるという考えを数式化したものになります。
ケンブリッジの現金残高方程式は次の形で表されます。
M=kPY
左辺は、
M:マネーサプライ(money supply)
です。一方、右辺は、
- Y:(実質)国民所得
- P:物価水準
- k:マーシャルのkと呼ばれる定数
を掛け合わせたものになりますPYは、(名目)国民所得になります。
実質国民所得とは、インフレやデフレを考慮に入れた国民所得のことです。その一方で、インフレやデフレを考慮に入れず調整前の国民所得のことを名目国民所得と言います。
kがは、マーシャルのkとよばれる定数です。
ここから、マネーサプライは名目国民所得に一定の数値(k)をかけたものになることがわかると思います。
ケンブリッジの現金残高方程式
国民所得(GDP)に一定の値をかけたものがマネーサプライになるという考えを数式化
M=kPY
- Mは、マネー・サプライ
- Yは(実質)国民所得
- Pは物価水準→PYは、(名目)国民所得
- kはマーシャルのkと呼ばれる定数
貨幣供給
続いて貨幣供給について解説していきます。
貨幣供給において、信用創造というシステムが重要になっていきます。
信用創造
まず、信用創造とは銀行が貸し付けによって預金通貨を創造できる仕組みの事を指します。
具体的に説明します。人々が貨幣を金融機関に預金します。
銀行は預金を様々な企業などに貸し出されます。企業はまた借りたお金を使い利益を出します。これをまた、他の銀行に預金として預けます。
これにより、初めに受け入れた預金の何倍もの派生的預金が、世の中に発生することになります。これが信用創造です。
信用創造は、金融システムを人々が信用することで成立しています。例えば、われわれが銀行にお金を預けるのはいつでも引き出せると信用しているからです。
この信用が崩壊すると、銀行にお金を誰も預けなくなり、金融システムは崩壊してしまいます。
支払準備率
金融機関は、支払いに備えて預金の一部を中央銀行に預けます。これを準備金といいます。
通常、政府や中央銀行などの金融当局は金融システムを守るために支払準備率を定めます。
支払準備率(法定準備率、預金準備率ともいう)とは、金融機関が預金のうち支払の準備として残しておくべき比率を示しております。
中央銀行はこの支払準備率の規定を操作することによってマネー・サプライを操作することができます。
ハイパワード・マネー
中央銀行がコントロールできるのは市場にある貨幣量の一部分となります。ですので中央銀行は、自分たちがコントロールできる貨幣量を使用して市場を調整します。
この直接コントロールできる貨幣量のことをハイパワード・マネー(H)とよびます。
これを式で表すと、
H=現金通貨(C)+準備金(R)
現金通貨(C)は、お札や硬貨などの現金です。こうしたお札は硬貨は中央銀行が発行しているので、コントロール可能な部分になります。(以下の図参照)
これに対して、預金は信用創造のプロセスの中で生み出されるものなので、中央銀行は直接的に関与することができません。そこで、先に説明した支払準備率を通じて操作可能な準備金を通して間接的に預金を操作するのです。
マネー・サプライ
世の中全体に出回っているお金はマネー・サプライ(M)としてあらわします。これを数式で表すと
M=現金通貨(C)+預金通貨(D)
現金通貨は、ハイパワード・マネーのときと同じです。これに、預金(D)を足し合わせたもの市場全体のマネーサプライになります。
預金(D)に関しては、各銀行から初めに受け入れた預金(Deposit)を本源的預金(d)と支払準備率(reserve requirement ratio)をrを以下の数式から導き出すことができます。
D=d/r
ではつづいて、中央銀行がどのようにしてマネーサプライを操作するのか?数式から見ていきましょう。
貨幣乗数
中央銀行は、ハイパワード・マネー(H)を変化させて、マネー・サプライ(M)全体を操作しようとします。貨幣乗数とは、ハイパワード・マネー(H)を1単位増加させたときのマネー・サプライ(M)の増加分のことを指します。
貨幣乗数をmで表した場合以下のようになります。
M=mH
この式に、H=C+RとM=C+Dを代入をして変形をすると、
C=M-D
C=H-R
→M-D=H-R
この数式を利用してハイパワードマネー(H)とその他との要素との関連性を見ていくことが可能になります。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!
それは、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』です。
こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。
これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。
しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。