産業革命による社会の工業化が進んだ18世紀前半から19世紀前半はヨーロッパが急成長した時期に当たります。
また、この記事は以下の書籍をもとに書いた記事になります。非常に西洋経済史の基礎的な部分を解説したものになります。合わせてお読みください。
なぜヨーロッパが最初に近代経済成長を遂げたのか?
18世紀以降、ヨーロッパでは近代化と工業化が進みました。特に、アメリカ独立革命とフランス革命による政治的変化と、あわせて工業化による経済的変化が生まれた時代でもあります。
工業化とは、農業社会から工業社会へと移行することです。富の生産や労働人口の比重が農業から工業へ移行するのです。
農業社会では、自然から取れる有機的な資源に依存して人々は生活をしていました。工業化社会では、ここから脱却し、無機的な資源である燃料や動力に依存するようになります。
これにより労働者と資本家といった社会関係や人々の意識の変化が進みました。
ヨーロッパにおける近代経済成長の要因
近代では、経済的に大きく飛躍しました。
近代経済成長とはサイモン・クズネッツによって定式化された概念です。近代経済成長とは、18世紀以降に起こった経済社会的変かのことです。
確かに、近代以前にも経済成長は起きていました。しかし近代経済成長がこれまでの経済成長と違う点は、
- 人口や1人あたり生産量や所得が持続的に増加
- 産業構造の大幅な変化や都市化などの近代化と呼ばれる社会的変化
が起こったことです。1つ目は、1人が特定の国において生産する財の量であったり、1人が獲得することのできる所得が増加したことをさします。
2つ目は、近代以前は農業社会であったのが近代以降は工業化が進み様々なものが機械化されたということです。それに伴い、各地で都市が生まれました。
クズネッツは世界各国の歴史資料を収集し、数量データを分析しこのような結論にたどり着きました。
また、近代経済成長がヨーロッパに限らず一定の普遍性を持った現象であることを実証しました。ヨーロッパでの近代化ののち、日本や東南アジア、中国などのアジア圏でも経済成長が起こりました。
では、なぜ近代経済成長をヨーロッパが先に遂げることができたのでしょうか?この点に関しては、主に
- 宗教と合理性
- 人口と資本
- 制度
- 国際関係
の4つから説明されることがあります。以下ではこの4点についてそれぞれ解説をしていきます。
プロテスタンティズムと合理性:マックス・ウェーバー
ヨーロッパが最初に経済成長を遂げた要因に西洋人特有の合理性があげられます。この点を指摘したのが、ドイツの経済学者でもあり社会学者のマックス・ウェーバーです。
ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の「精神」』でプロテスタンティズムの考え方が資本主義的な社会を作るのに役に立ったと主張しています。
資本主義の精神とは合理的な経営・経済活動を支える精神や行動様式のことです。これがプロテスタントの思考と親和性が高かったとしています。
プロテスタントのカルヴァン主義には予定説と言われるものがあります。これは、個人は神によって救済されるかどうかがあらかじめ決まっており、本人はそれを知り得ないとする説です。
そこで、個人は現生で善行を積むことで救済を確信に近付こうと足掻くしかないのです。その善行が人々が天職に禁欲的に勤しみ、蓄財や営利を増やすことです。
結果として、天職に勤しむことを正当化することで、蓄財や営利追求を正当化されました。そして、この蓄財や営利追求という行動が資本主義に適合する行動様式なのです。
ウェーバーのこの主張は、宗教と経済を結びつけて論じたもので、様々な宗教の中でプロテスタントが近代資本主義の成立と密接に関係し、かつ合理性が西洋的なものであることを示したのです。
人口と資本蓄積:
2つ目の近代経済成長をヨーロッパが遂げることができた要因として人口と資本が挙げられます。それは、内部的要因を重視するものと外部的要因を重視するものに分けられます。
1つ目の内部的要因に関しては、ヨーロッパ的な思考のおかげてマルサスの罠を抜けることができたする視点です。
マルサスの罠とは生産量が増大しても、人口も増大するので長期的に経済は停滞するという考えです。
しかし、ヨーロッパでは人口に関して予防的な抑制が取られました。この結果、人口の増大が抑制されることになりマルサスの罠を抜けたと考えたのです。
結果として、人々は豊かになり必需品以外の市場も成立し、1人あたりの資本ストックを増加させることができたと考えたのです。
2つ目が外部要因に経済成長の要因を求めるものです。それは、ヨーロッパにはもともと成長を阻害する要因少なかったとするものです。
他の地域と違い、大災害や人口増加の圧力の打撃から逃れていたヨーロッパの自然条件が、一人当たり所得を比較的高い水準で保ち、資本蓄積を容易にしたと考えました。
また、ヨーロッパでは資源が一箇所に集中せず、散在していました。これが交易を促進して市場の勃興を生みました。これにより、非常に早い段階で工業化の萌芽が現れたとします。
制度の優位性
D.ノースを代表とする新制度学派は初期近代に経済発展の原動力となった組織と制度があったことを指摘しています。
従来、経済成長は技術革新などの要因に焦点を当ててきました。
しかし、ノースは『西欧世界の勃興』において経済成長には技術革新や規模の経済性、資本の蓄積自体は成長そのものであり、成長の要因ではないとしています。
それよりも、私的所有権の確立による効率的な市場の勃興が重要であると指摘しています
ヨーロッパでは所有権を国家によって保証されていました。そのため、自分で稼いだカネやモノを奪われることがなくなるのです。
これにより取引費用が削減されることになるのです。つまり、取引をする際の懸念材料がなくなるのです。結果として、効率的に市場が回るようになったのです。
J.Rヒックスは『経済史の理論』で市場に焦点を当てて分析をしました。
彼は古代の都市商人以降の商人的経済の発展のピークに産業革命を位置付けました。つまりヨーロッパは、古代からすでに経済成長をする素質を持っていたと考えたのです。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございます!西洋経済史に関する理解は深まったでしょうか?他にも西洋経済史の記事は以下にまとめてあるのでぜひ読んでみてください。
また最後におすすめの書籍を紹介したいと思います。まず、この記事は以下の書籍をもとに執筆しています。有斐閣アルマの「西洋経済史」は非常にベーシックな内容となっているので、学ぶ上で非常にためになると思います。
ただ難易度がやや高いので、もう少し難易度を下げたい方は以下の書籍もおすすめです。この「やり直す経済史」は日本に関しても言及しているので、親近感を持って経済史にのぞむことができます。
また、これまでの経済史は西洋中心の考え方になっています。しかし、世界にはアジアやイスラーム地域に関しては忘れられがちです。そこで「グローバル経済史入門」は、東南アジアなども含めたグローバルな経済史を描き出しており、非常に学びが深いです。ぜひ読んでみてください。