経済思想

『人口論』で「マスサスの罠」を主張したトマス・ロバート・マルサスについてわかりやすく解説。

この記事では、『人口論』で絶望的な学説の「マルサスの罠」を主張したトマス・ロバート・マルサスについて解説します。

彼は、イギリスの経済学者で『人口論』で有名になった人物です。かつて、人口増加による食糧危機が叫ばれていた中国が一人っ子政策を行なったのも、マルサスの理論がありました。

それでは、マルサスの『人口論』とマルサスの思想について見ていきましょう。また、人口論を漫画で解説した書籍もあるので合わせてお読みください。

この記事でわかること
  • マルサスの思想の全体像把握できる
  • マルサスその人の来歴を知れる
  • 『人口論』の全体像がわかる

マルサスとは?

マルサスはイギリスの経済学者です。

彼は1776年にイギリスのサリー州で生まれました。地主層の家庭は裕福で、十分な教育を両親から受けていました。

その後、ケンブリッジ大学に入学しラテン語や数学で優秀な成績を収め、当大学の研究員に20代で就任しています。

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トマス・ロバート・マルサス

彼はもともと、英国国協会の聖職者になることを望んでいたこともあり、1789年には司祭に次ぐ地位である執事に任命されました。

その後、東インド・カレッジに就任し、牧師の役目も果たします。彼はこの職を死ぬまで勤め上げたそうです。

彼は、『人口論』(1798年)や『経済学原理』(1820年)といった著作を著しています。

また、マルサスは不況が需要の不足で起こるという説を提唱しており、のちにケインズがこの点を評価しています。

ジョン・メイナード・ケインズ

マルサスの思想の前提

マルサスの思想の前提には、人口増加を抑制しなければ人類の進歩は望めないという考えがあります。この悲観論は、陰鬱な科学とも形容されておりました。

のちにも説明しますが、貧乏人を援助すると人口が増大し、経済的に良くないことが起こると考えていたからです。

彼の人口抑制に関する思想は当時の福祉政策への批判にもつながりました。当時、イングランドでは救貧法という、教区を通じて貧民を救済する社会福祉制度がありました。

マルサスは、この救貧法が2つの弊害を生んだとしました。それが

  • 人々の依存心と無責任を助長した
  • 下層階級の幸福を減らし

ということです。一点目は、いつも最低限の食料を得ることができるなら、もっと子供を生んでもいいと考え、人口増加に寄与してしまうという理由になります。

後者は、誰かが養ってくれるという倫理観の欠如が生まれたことが理由に挙げられます。

そのため、マルサスは社会福祉などの平等を志向する政策に対しては非常に冷淡だったのです。この論理的根拠は『人口論』で論じられることになるのです。

CHECK

マルサスの思想の前提には、人口増加を抑制しなければ人類の進歩は望めないという考えがある。

マルサスの思想『人口論』

1798年にマルサスは『人口論』を執筆しました。ここで彼は、人口抑制

人口の原理:性欲と生活物資

マルサスは、人口に関して2つの自明の前提をあげました。

  • 食料は人間の生存にとって必要不可欠である
  • 人間に性欲は今もこれからも存在する

どちらもあたり前のことですが、これらが経済問題を引き起こす原因となるとしています。

それが生活物資等差級数的にしか増加しないのに対して、人口等比級数的に増加するということです。簡単に言えば、生活物資の生産スピードより人口の増加スピードの方が速いという話です。

これにより人口分の食料がまかないきれなくなるとマルサスは考えていました。

人口の原理
CHECK

生活物資等差級数的にしか増加しないのに対して、人口等比級数的に増加するため、人口分の食料がまかないきれなくなる

土地の広さには限界がある:収穫逓減の法則・限界地

人口増加のスピードに生活物資の生産スピードが追いつかないのでしょうか?その理由が、土地の広さとそこから得れれる食料には限界があるからです。

なぜ限界があるのか?それは

  • 収穫逓減の法則
  • 限界地の生産コスト

が関係しています

収穫逓減の法則とは、1つの土地からの収穫量は、投入した労働量の増大に比例せず、労働者を増やしていくたびに得られる収穫量は逓減していくという法則です。そのため、得られる食物にはいずれ限界がきてしまいます。

そのため、収穫量をさらに増加させるためには、肥沃度が低くて生産性の低い土地を利用する必要性があります。

しかし、限界地呼ばれるような生産性の低い土地は、改良するコストが地主にとって割が合わないため、物価が上がっても未耕作のまま放置されるとマルサスは考えたのです。

CHECK
  • 収穫逓減の法則とは、1つの土地からの収穫量は、投入した労働量の増大に比例せず、労働者を増やしていくたびに得られる収穫量は逓減していくという法則。得られる食物にはいずれ限界がきてしまいます。
  • 限界地呼ばれるような生産性の低い土地は、改良するコストが地主にとって割が合わないため、物価が上がっても未耕作のまま放置される

貧困の出現::マルサスの罠

このように、人口増加のスピードに生活物資の生産スピードが追いつかないことによって、食料価格が上昇し、賃金の低下を招くことになります。

そのため、食料供給が間に合わなくなり飢饉が発生し人口増加は停止することになるとマルサスは考えました。のちにこのような考え方はマルサスの罠と称されるようになりました。

ここで初めて、人口が減少し労働供給が減少すれば、安い労働力で開墾事業などを進めることができます。そして、食料品の供給を徐々に増やすことができるようになります。

マルサスは、社会は人口増加と人口減少を繰り返してきている点を歴史の事例から指摘しています。

CHECK

マルサスの罠食料供給が間に合わなくなり飢饉が発生し人口増加は停止すること

しかし、このマルサスの罠は、産業革命によって打ち破られることになります。技術の進歩によって人口増加を補うほどの生活物資の供給が可能になったのです。

さいごに

ここまで読んでくださりありがとうございました。ここで、さらにマルサスについて更に理解を深めたい方は以下の書籍を紹介します。

まず紹介するのは、「人口論 (まんが学術文庫)」です。難解なの『人口論』を漫画でわかりやすく理解することができます。

続いて、さらに理解を深めいた方向けに、和訳の『人口論』(光文社)はおすすめです。岩波文庫からも出ているのですが、読みやすさでは光文社に勝るものはありません。ぜひ読んでみてください。

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