経済思想

『隷従への道』や自生的秩序で有名な新自由主義者フリードリッヒ・ハイエクについてわかりやすく紹介。

この記事では、『隷従への道』や自生的秩序などで有名な新自由主義者フリードリッヒ・ハイエクについてわかりやすく解説します。

ハイエクを知ることで、現在の経済政策に関する論争の背景などがはっきりしてくると思います。

経済学の知識がなくても読める内容となっていますので、ぜひ最後まで目を通していただけたらと思います。

この記事で得られること
  • ハイエクへの理解が深まる
  • 新自由主義とは何か理解できる
  • 経済学に対する理解がより深まる

ハイエクの生涯

フリードリヒ・ハイエクはオーストリア出身の経済学者です。オーストリア学派の経済学者として有名です。また、新自由主義者の筆頭としても有名な人物です。

フリードリッヒ・ハイエク

彼は、1899年にウィーンで生まれました。ハイエクはウィーン大学で幅広い学問を吸収し、オーストリア学派の経済学者カールメンガなどの大物から指導を受けています。

卒業後は、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスのもとでオーストリアの政府機関に職を受けました。

1927年になると、ハイエクはミーゼスとともに景気循環と価格理論を中心に研究を進めました。1931年にはケインズと対立することもありました。

1930年代以降、ケインズの政府介入中心の思想が流行り、論戦を交わすこともありました。

ケインズ

1944年になると、第二次世界大戦の中で登場した全体主義的傾向への批判から、『隷従の道』を執筆し多くの注目を集めました。

1947年にはカールポパーやミルトン・フリードマン、ミーゼスとともに開放的な自由主義に基づく社会を推進する目的で、モンペルラン・ソサエティーを創設しました。その後、彼は新自由主義の指導者として活動しました。

1950年にンスとシカゴ大学に就任し、1960年代になると西ドイツのフライブルク大学で教授を務めました。

1974年になるとグンナー・ミュルダーとともにノーベル経済学賞を受賞しています。そのほか、友人のマーガレットサッチャーの推薦を受けて、エリザベス女王からコンパニオンず・オブ・オナー勲章を受賞しています。

ハイエクは1992年に、多くの知的な影響を社会に残してこの世を去りました。

ハイエクの思想:新自由主義

ハイエクは20世紀を代表するオーストリア学派に属する経済学者です。彼の主な著作には

  • 「隷属への道」(1944年)
  • 「貨幣発行自由化論」(1988年)
  • 「市場・知識・自由:自由主義の経済思想」(1986年)

彼は、『隷属への道』政府の計画と指令によって動かされる経済では、資源は効率的に配分されないだけでなく、国家の定める目標によって個人の人生の選択肢が次第に狭められると考えました。

そのため、彼は民主主義と資本主義経済に基づく社会を正しいものと主張しました。1970年代になると新自由主義の旗手として、政治にも大きな影響を与え注目を集めました。

新自由主義とは?

新自由主義とは政府の役割を最小限にとどめ市場原理に任せることを主張する思想のことです。

アダム・スミスの自由放任主義の延長線上にある考え方です。市場原理による自動調整メカニズムの信頼が前提にあります。

基本的に政府の規制や利権は撤廃する方向の政策をとります。政府が関わるのは軍事や警察などに限定されます。

このような小さな政府であっても、市場メカニズムが働いて経済を安定させることができると考えていました。

新自由主義者はハイエクだけでなく、ミルトンフリードマンという経済学者や師匠のミーゼスなどが挙げられます。

新自由主義的な政治家としてはサッチャー首相やレーガン大統領、中曽根総理大臣が挙げられます。

CHECK

新自由主義:政府の役割を最小限に留め市場原理に任せるべきという考え方アダム・スミスの自由放任主義の延長線上にある考え方です。市場原理による自動調整メカニズムの信頼が前提にあります。

ケインズとの対立

その一方で、大きな政府を主張するケインズ経済学や社会主義などの思想とは対立することになります。

社会主義中央政府が市場が大幅に介入しますし、ケインズ経済学は、社会主義ほどではないにしても、財政政策や金融政策などを通じて市場に介入します。

それに対して新自由主義といった小さな政府を主張し、市場の調整機能に任せるような思想とは相容れなかったのです。

そのため、のちにも解説しますが、社会主義計算論争や、貨幣発行自由化論において社会主義者やケインズと論戦をすることがありました。

また、こうした論争は現在にいたるまで大きな政府vs小さな政府という形で続けられています。

自生的秩序への信頼:「市場・知識・自由:自由主義の経済思想」

「市場・知識・自由:自由主義の経済思想」という論文は、社会主義計算論争自生的秩序について論じています。一国の経済秩序はどのように作られるのかという問いから発しています。

そのきっかけとなったのが社会主義論争でした。この論争からハイエクは、自生的秩序という自由主義社会を擁護するためのキー概念を生み出しました。

社会主義論争

オーストリア学派のハイエクとミーゼスは、1920年代から40年代にかけて盛んになった社会主義計算論争というものに参加しています。これは、社会主義が実行可能かどうかをめぐる議論でした。

この論争は、市場原理主義者のハイエク、ミーゼスと社会主義者のオスカー・ランゲという構図となっていました。ミーゼスはオーストリア学派でハイエクの師匠です。

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス

この論争で、オスカーは、一定の試行錯誤の元中央当局が資源を分配することで社会主義(市場社会主義)が実現できると考えました。

なぜなら、市場における一般均衡は中央当局が計算をすることで理論的に実現可能であると考えたからです。ちなみに一般均衡理論はワルラスが提唱もので、ワルラスに関しては以下の記事を参照してください。

ハイエクやミーゼスは、市場社会主義は、実現は不可能だと反論します。なぜなら、中央当局が情報量を処理しきることができないため、分権的意思決定がなされる市場に任せた方が効率性が良いからです。

また、人間の意志で市場を動かす市場社会主義は実現不可能だとしています。なぜなら、市場は人間の意図しない結果によって作られた秩序であるからです。それが、自生的秩序と呼ばれるものです。

CHECK

社会主義(市場社会主義)一定の試行錯誤の元中央当局が資源を分配することでが一般均衡実現できると考えられた

自生的秩序

ハイエクは、市場は自生的秩序(秩序)という、個々人の自由な活動の相互調整の結果によって作られた秩序であるとハイエクは考えました

自由を前提として人々が行動する中で、各人が合意の元慣習や暗黙のルールが生まれるとします。これが自生的秩序です。

特に、市場は自生的秩序の1つです。人々の自由な取引の中で、取引に関する法律や暗黙の決まり事が生まれることで市場が成立しています。

一方で、ハイエクは自生的秩序と対立するものとして設計的秩序(組織)を挙げています。人間の理性によって作り出された秩序の事を指します。これらは、政府や企業などが挙げられます。

自由の法(nomos)立法の法(thesis)
分類自生的秩序(秩序)設計的秩序(組織)
市場政府

ハイエクはこの設計的秩序と自生的秩序は補完的なものとして捉えており、決して自生的秩序のみを賞賛したわけではない点は注意です。

CHECK
  • 自生的秩序(秩序)個々人の自由な活動の相互調整の結果によって作られた秩序
  • 設計的秩序(組織)人間の理性によって作り出された秩序の事を指します。

政府の規制の撤廃を主張:『貨幣発行自由化論』

新自由主義者ハイエクは、貨幣の発行も政府が行うべきではないと『貨幣発行自由化論』で主張しています。

ケインズ派への批判

ハイエクがこの事を主張した背景にはケインズ経済学的な政策によって財政赤字が広がってい他ことがあります。

ケインズ経済学は、財政政策などを通して減税や公共事業などを行うことを推奨しましまた。

しかし、政治家たちは財政政策を通して景気が回復しても、減税や公共事業を減らそうとしませんでした。なぜなら、選挙に不利だからです。むしろ、癒着や利権が生まれ国民からの批判の声が大きくなっていた時期でした。

ケインズ経済学は、政治家などのエリートはちゃんとしているという前提があって初めて成立する理論でした。しかし、現実は癒着や選挙対策これをハーヴェイロードの前提が崩れたと言います

そこで、ハイエクはこうした大きな政府の考え方に対する批判から、「貨幣発行自由化論』を発表したのです。

CHECK

ケインズ経済学的な政策によって財政赤字が広がっていたことが「貨幣発行自由化論』の発表につながる

貨幣発行自由化論

貨幣発行自由化論は、貨幣の発行の権限を民間にも解放し、自由にすべきであるという考えです。

通常の国民国家では、中央銀行が貨幣発行権を独占しています。

ハイエクは、中央銀行の独占する貨幣発行券を解放し、民間企業が各自で貨幣を発行できるようにするべきと考えました。

CHECK

貨幣発行自由化論貨幣の発行の権限を民間にも解放し、自由にすべきであるという考え

ハイエクは、市場原理を信頼する人物です。貨幣発行を自由化することで、不安定な通貨は淘汰され、安定した通貨だけが残ると考えたのです。

ちなみに現在、仮想通貨が流行っていますが背景には『貨幣発行自由化論』があると言われています。

さいごに

さいごに、ハイエクに対してより理解を深めたいという方に書籍の方を紹介しようと思います。

まず、ハイエクの主著『隷従への道』のリンクを貼っておきます。

また、今回の記事で解説した『市場・知識・自由』はこちらです。

しかし、これらの本は正直めちゃくちゃ難しいです。

そこで50人もの経済学者について1人5分で理解きる『世界の経済学 50の名著』はオススメです。ハイエクの思想の概要を5分で理解できるように書いてあります。

そのほか、オススメの書籍を貼っておきます。

この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!

それは、スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編です。

こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。

これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。

しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。

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