経済思想

新古典派経済学の生みの親アルフレッド・マーシャルについてわかりやすく紹介。

この記事では、アルフレッド・マーシャルについて書いていきます。

現在の経済学、特にクロ経済学の基礎理論を打ち立てたのは実はマーシャルです。アダムスミスやリカードのまでは古典派経済学と呼ばれる潮流でしたが、マーシャルはその流れを一気に変化させました。

そして、新古典派経済学という流れを新たに生み出したのです。

また、経済思想について興味がある方は、50人もの経済学者について1人5分で理解きる『世界の経済学 50の名著』はオススメです。

この記事を読むメリット
  • 現在の経済学の基礎理論の源流を知れる
  • マーシャルについて知れる
  • 新古典派経済学について知れる

マーシャルとは?

アルフレッド・マーシャルはイギリスの新古典派経済学者です。

アルフレッド・マーシャル - Wikipedia
アルフレッド・マーシャル

1842年に彼は生まれました。平凡な家庭の生まれでしたが、父の勧めもあり勉学に励みケンブリッジ大学に入学しています。

数学を専攻して学年で2位の成績を収め卒業しました。

1865年にケンブリッジ大学で教職に就き、形而上学や倫理学、心理学の研究をしていました。1877年には、女性と労働者階級の教育に力を入れていたユニバーシティ・カレッジ・ブリストルの学長に就任しています。

こうした中で彼は1885年にはケンブリッジ戻り、終生ケンブリッジで過ごすことになりました。

また、マーシャルの思想をもとにした潮流のことをケンブリッジ学派と言います。それほど彼の思想はのちの経済学者に影響を与えました。

マーシャルは王立経済学会の創設に尽力し、『エコノミック・ジャーナル』を創刊しています。他にも王立委員に加わり貧困問題などに取り組みました。

彼の著作には、『経済学原理』があり、長い間経済学の教科書として使用されていました。それほどマーシャルは、現在の経済学の基礎に大きな貢献を果たした人物だったのです。

マーシャルの思想の前提

経済学は人間の研究する学問

経済学は、19世紀当時、単なる技術的な学問としてしか認識されていませんでした。哲学や歴史学などのように正当な地位を得ていなかったのです。時に経済学は利己的な利益の科学と揶揄されることがありました。

この風潮に対して、マーシャルは批判的でした。そして彼にとって経済学貨幣を通して人間がどのような動きをするのかを研究する科学的な学問でした。

彼は経済学の利点として、計測可能性をあげています。人がどのくらい稼ぎ、消費し、貯蓄し、投資するのかは、のちに解説する需要と供給の曲線によって可視化できると考えていました。

経済学は貨幣を通して人間を研究する学問
CHECK

マーシャルの経済学:貨幣を通して人間がどのような動きをするのかを研究する学問でした。

新古典派経済学の父

マーシャルが経済学者としての道を歩み始めた19世紀は、アダム・スミスデヴィッド・リカードなどの古典派経済学が主流でした。

古典派とは、労働価値説を主軸とする、自然的均衡を信頼する考え方の潮流のことです。

CHECK

古典派経済学:労働価値説を主軸とする、自然的均衡を信頼する考え方の潮流

現実の経済は、古典派の言うように自然的均衡状態に到達することはないと、マーシャルは主張しています。かれににとって自由放任主義的な希望的観測論は理解しがたいものだったのです。そこで、彼は

・完全雇用などのような目的を達成するために政策主導の考えを取り入れた経済学
・経済の動きをより科学的に分析する学問としての経済学


への転換を目指しました。

古典派と新古典派kk

その結果、需要供給曲線や価格弾力性などの基礎理論を打ち出しまし、新古典派経済学の土台を作りあげました。

CHECK

マーシャルの目指した経済学

  • 完全雇用などのような目的を達成するために政策主導の考えを取り入れた経済学
  • 経済の動きをより科学的に分析する学問としての経済学

弟子にも恵まれ、ケインズやピグーなどの大物経済学者を輩出しています。

労働者や貧困者の生活基準の向上と経済騎士道

マーシャルは、労働者や貧困者の状況の改善策について取り組んでいました。一方で、経営者の事業成功への努力に対しても好意的でした。

まずは労働者について。彼は、労働者などの貧乏人には教育が必要であると指摘しました。

貧乏人は、幼少期における教育が不十分で、貧困から抜け出せない悪循環に陥っているのです。そこでマーシャルは経済的成長と知的・倫理的成長を貧乏人はするべきであり、それにより人間性の向上が起こると指摘しています。

続いて、経営者について。

マーシャルは、経営者が事業の結果として多大な富を獲得するというのは、中世の騎士道精神と類似していると主張します。

中世の騎士道とは、それらが困難であるがゆえにこれを行う喜びを含むという意味です。超絶ストイックに努力することを賞賛する意味です。

経営者も中世の騎士と同じ気持ちで事業を行えば人間性の向上が図られるのです。

CHECK
  • 経済的成長と知的・倫理的成長を貧乏人はするべきであり、それにより人間性の向上が起こると指摘しています。
  • 経営者も中世の騎士と同じ気持ちで事業を行えば人間性の向上が図られるのです。

マーシャルの経済学:『経済学原理』

では続いて、『経済学原理』においてマーシャルの提唱した基礎理論の具体例について触れていきます。

需要曲線と供給曲線

これまで、需要と供給についての考え方として古典派経済学のアダム・スミスはとリカードは、商品の生産と供給にかかるコストが価格の決定要因になると考えました。一方で、限界革命の担い手の一人は価格は需要によって作り出されるとジェヴォンズは主張しています。

これに対して、マーシャルは需要と供給の両方を反映して価格が決まると述べました。これがマーシャルの需要供給曲線として描かれます。

需要供給曲線

供給は右肩上がり、需要は右下がりの曲線になっています。

需要供給曲線の形状

ある商品の価格が上昇すれば、企業はその商品の供給量を増やすと考えました。生産者は利潤最大化のために行動し、それが供給を決定します。そして、商品の価格が労働を含む生産コストを上回る限り、生産は続けられます。

一方で、ある商品の価格が下がればその商品の需要量が増加すると考えました。需要に影響を与える要因には、所得や人口、他の商品価格、広告な度があげられます。

この2つの曲線の交わる点が均衡点と言います。ここでは、消費者もその価格で喜んで購入し、生産者もその価格で喜んで供給を行います。

均衡点

価格弾力性

マーシャルは価格弾力性の理論でもよく知られています。価格弾力性とは、価格が変化した時に需要量や供給量がどの程度変化するのかを示したものになります。数式で表すと以下のようになります。

数式:需要量/供給量の変化率(%)/価格の変化率(%)

需要供給曲線で表すと曲線の角度が、価格弾力性に当たります。

価格弾力性の低いものとして、燃料があります。タバコは中毒性の高い財なのである程度価格が上がっても消費者は購入をやめないでしょう。そのため、価格の変化に対して需要量は変化しにくいと考えられます。

一方で、オレンジジュースは、代替品が多いために価格弾力性が高くなります。そのため、価格の上昇に対して、需要量はの減少幅は大きくなると考えられます。

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価格弾力性の理論価格が変化した時に需要量や供給量がどの程度変化するのかを示したもの

また、価格弾力性は時間の変化とともに変化するとマーシャルは主張しています。ガソリンの需要は最初は非弾力的ですが、時間の経過とともい技術屋資源の使用方法の変化によってガソリンの弾力性は高くなる可能性があります。例えば電気自動車などの利用があげられます。

より詳細を知りたい方は以下の記事も合わせて読んでみてください。

限界効用・収益逓増の法則

限界効用の理論はジェヴォンズやメンガー、ワルラスといった経済学者が創始者とされています。同様にマーシャルも『経済学原理』の中で触れています。

限界効用を抑える上で、効用について知っておく必要があります。効用とは消費者が抱く満足度のことを指します。効用はグラフで表すと以下のようになります。

効用に対して、限界効用とは財の消費量が1単位増加したときに得られる効用の増加分のことを指します。そして、限界効用は効用曲線の接線の傾きで表すことができます。

限界効用は逓減すると言われています(限界効用逓減の法則)。グラフで表すと以下のような形になります。消費量が増えるたびに限界効用を表す接線の傾きが小さくなっていることがわかると思います。

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限界効用財の消費量が1単位増加したときに得られる効用の増加分

限界効用逓減の法則

例えば、飲み会でビールを飲んだ時に1杯ごとに得られる味しさが限界効用です。また、ビールの美味しさは1杯目がピークで2杯目、3杯目と1杯ごと減っていくことがわかると思います。これが限界効用逓減の法則と言います。

消費者余剰と生産者余剰

ある財やサービスに支払う価格と、支払っても良いと考える価格の差を消費者余剰とマーシャルは呼びました。その差、つまり支払っても良いと考える価格より、実際の価格が低ければ、消費者余剰は大きくなります。逆もまた然りです。

一方で生産者余剰とはうっても良いと感じる価格と、実際に販売される価格の差のことを指します。こちらも売っても良いと感じる価格より、高く売ることができた場合、生産者余剰は大きくなります。

CHECK
  • 消費者余剰ある財やサービスに支払う価格と、支払っても良いと考える価格の差
  • 生産者余剰とはうっても良いと感じる価格と、実際に販売される価格の差のこと

そして、均衡点で生産者余剰と消費者余剰の合計は最大になります。これをグラフに表すと以下のようになります。均衡点から少しでもずれると生産者余剰と消費者余剰どちらかが大きく、どちらかが小さくなってしまいます。

生産者余剰と消費者余剰

ここから、マーシャルは重要なのは人々が手にする絶対的な所得ではなく、所得によって何が得られかと言うことであると主張しました。

商品価格は変化します。5年前のサービスが安く手に入ったら、消費者は豊かになったと考えられるのです。

余剰分析に関しては、別の記事で解説しているので読んでみてください。

完全競争

マーシャルは、経済の仕組みを説明するために、完全競争モデルを発展させました。

マーシャルの想定する完全競争市場は、無数の生産者と消費者が、全員あるとくていの製品や農産物を売り買いし、全員がその品質や価格について十分な知識を持っているような市場を指します。

完全競争市場では、個人は価格に対して影響を与えることがでない価格需要者(プライステイカー)です。

完全競争市場

そのため、短期間であっても標準以上の利潤を得ることはできません。市場は頻繁に清算され、需要と供給の均衡が生じます。

CHECK

完全競争市場無数の生産者と消費者が、全員あるとくていの製品や農産物を売り買いし、全員がその品質や価格について十分な知識を持っているような市場を指します。

しかし、この完全競争モデルには問題点が存在します。

それは、消費者の価格に対する知識が常に完全とは限らない事実を考慮に入れていない点です。現実にマーシャルが完全競争で例に出した農産物や通貨の市場も、完全競争は実現していないのです。

そのため、現在では独占など様々な市場が想定されています。詳細は以下の記事を読んでみていください。

さいごに

この記事をきっかけで少し経済学について理解を深めたいと思った方は、以下の書籍から初めてみるのがおすすめです!

それは、スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編です。

こちらはミクロ経済学に関して難しい数式を使うことなくわかりやすく説明してくれています。

これらの本を理解できたら、次に『スティグリッツ入門経済学』を読んでみるのもアリだと思います。ですが、正直、信じられないくらい分厚いので覚悟は必要かもしれません。

しかし、この本を読めば経済学という学問の全体像を知ることができるのでオススメです。

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